学生が剣で斬り合う? 戦うことで平和を考えるドイツの決闘文化
現代に残る決闘
ドイツの大学には「メンズーア」という、男性同士が1対1で剣を持って戦う決闘があります。攻撃するのは相手の顔と頭のみで、相手の攻撃を避けたり目を背けたりすると失格です。斬り合いというより、度胸試しの側面が強い点が特徴です。体は防具でしっかりと覆い、外科医の資格を持つ決闘専門員が立ち合うなど、決闘者の命を守るたくさんのルールが定められています。しかし、スポーツと違って勝敗はつきません。それよりも決闘から逃げず、最後までやり遂げることが重視されます。
刀傷は栄誉の証
メンズーアのルーツは、古代ゲルマン人の「決闘裁判」です。「神は正しい者を助ける」という考えのもと、決闘で勝った方を正しいとするこの裁判は、後の騎士道精神やメンズーアに大きな影響を与えました。ドイツの大学でのメンズーアは約500年前から行われています。同郷の学生が結成したグループが「学生結社」となり、結社のメンバーが自分たちのプライドを見せるために、他地域出身者と決闘するようになったのが始まりです。当時、大学に通える人は限られたエリートのみで、メンズーアを経験して頭や顔に刀傷を負うことは、重要なステータスとなりました。あのゲーテやニーチェもメンズーアを経験し、刀傷を負っています。
戦いと平和
メンズーアがはじまった当初は、現在のようなルールはなく、命を落とす学生が絶えませんでした。徐々にルールが整備されていきますが、幾度も禁止令が出されます。しかし、決闘を通して「若者を男にする」この文化を尊重する人も多く、ドイツ連邦最高裁判所は1951~53年に行われた「ゲッティンゲンのメンズーア訴訟」においてメンズーアを合法とする判決を出し、現在も続いています。
人が剣で斬り合うという点では、野蛮ともいえるメンズーアですが、恐怖を乗り越えることで人を成長させ、対戦相手との深い絆を生むことも事実です。戦いを経験することで平和を考えることこそが、メンズーアという文化の大きな意義なのです。
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先生情報 / 大学情報
京都外国語大学 外国語学部 ドイツ語学科 教授 菅野 瑞治也 先生
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ドイツ文化史、決闘文化論先生が目指すSDGs
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