はたらく人びとの日常生活から見える歴史
ニューヨークを「創る」
ニューヨークが世界有数の大都市に発展した背景には多くの労働者の存在があります。20世紀初頭に人口が急増したニューヨークでは住宅、橋、道路、トンネルなどの建設が必要になり、地下鉄の整備も急ピッチで進みました。これらの建設作業を担ったのはアイルランド系やそれに続いて南東欧から流入してきた移民でした。言語や宗教、生活文化などの面で主流社会を占めるアメリカ白人とは異なるこうした人びとは差別的状況に置かれ、賃金が安く、過酷で危険な肉体労働に就いたのです。
複雑な人種関係
1960年代のアメリカでは人種間の緊張が高まります。高揚する黒人公民権運動は、これまで白人が独占してきた仕事の開放を求めました。この頃までに慎ましくも安定した生活を築いていた白人労働者はこうした状況に焦燥感を強めて激しく抵抗し、その一方で黒人の都市への流入を嫌い、郊外へ流出していきました。都市中心部には貧しい黒人が取り残され、住環境の悪化が進みました。かつて主流社会から差別されていた白人移民労働者は世代を経て社会的地位を向上させ、黒人や他のマイノリティとは違う「ミドル・クラスのアメリカ白人」としての意識を強めていたのです。このことから分かるように、人種間の関係は可変的で決して単純な二項対立ではないと言えます。
アメリカ史を通じて日本社会を考える
アメリカ社会の中で生きる人びとの日常に目を向けてみると、そこには「アメリカ人」としての自意識や愛国心がどのように創られ、変化していくのかが見えてきます。そうしたアメリカの歴史を学ぶことは、これまでの日本社会を見直し、これからの日本社会のあり方を思い描くことにもつながります。朝鮮半島にルーツを持つ人々が暮らし、現在はさらにいろいろな国から地域社会へ入ってくる外国人が増え続けています。こうした人たちとどのような関係を創るのか、それによってどんな社会が展望できるのか―アメリカ史の学びは、現在進行形で変化する日本社会を考えることでもあるのです。
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