「分離する」と「達観する」 一つの文字で意味が広がる中国語の不思議

「分離する」と「達観する」 一つの文字で意味が広がる中国語の不思議

“开”がもつさまざまな意味

現代中国語の補語“开(kāi)”は、動詞の後に置かれ、「分離する」や「達観する」のように、全く異なる意味を表し得ます。ほかにも、“铺开”では「(布などを)敷く」という「広がり」の意味、“跑开”では「走り去る」という「離脱」の意味、“哭开”では「泣きだす」という「開始」の意味を表します。このように、“开”には「分離」「広がり」「開始」「離脱」「露呈」「達観」「解消」といったさまざまな意味が存在し、“开”は異なる意味項目をもつ多義語であると考えることができます。

「メタファー」と「メトニミー」

補語“开”のように、ある語が一つの意味から別の意味を派生させることを「拡張」と表現します。拡張のメカニズムには「メタファー」や「メトニミー」等があります。メタファーは「類似性」を基盤として、別の意味へと拡張することです。例えば「(一体化していた事物が)分離する」から「(ある場所に位置していた事物が)その場所から離脱する」への拡張がこれにあたります。メトニミーは「隣接性」を基盤とし、隣り合う、あるいは近接する概念を表す意味への拡張です。例えば「(一体化していた事物が)分離する」ことで「(間に隠されていたものが)明らかになる」というような場合です。

意味ネットワーク

補語“开”に関するこれまでの研究では、“开”の表す意味について分類を行い、その用法や特徴について詳しい記述が行われてきました。近年ではそれぞれの意味のつながりや関係性を全体的に示す「意味ネットワーク」に関する研究も行われています。
こうした研究によって、多義語の拡張のメカニズムがより深く掘り下げられるだけでなく、言葉の意味をより俯瞰(ふかん)的にとらえられるという点で、外国語習得という点からも大きな役割を果たすことが期待されています。

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京都外国語大学 外国語学部 中国語学科 准教授 島村 典子 先生

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中国語学、言語学

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メッセージ

大学で中国語を学びたい人には、ぜひ中国の歴史についても知っておいてほしいです。なぜなら、文字や発音、語彙、文法といった言葉の変遷には、その時々の歴史的背景が大きく関わっているからです。中国語の体系的な文法研究は、西洋の先進技術を取り入れるという近代化へのニーズに後押しされて幕を開けました。ほかにもさまざまな歴史が重なって今の中国の文学や文化が存在します。日本でも中国の歴史に関する書籍がたくさん発行されているので、高校生のうちから触れておくことで、大学でより深い学びが得られると思います。

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