春に春の花が咲くのはどうして? 不思議だらけの雑草研究

春に春の花が咲くのはどうして? 不思議だらけの雑草研究

発芽と開花のタイミング

世界でも有数の生物多様性の豊かな地域である日本には、約5500種の陸上植物が生育しています。多くの植物がそれぞれ決まった季節に花を咲かせ、実をつけます。ふだんは何気なく見ていることだけれど、考えてみると「それって不思議」と思いませんか。植物の体内には、周りの環境に合わせて発芽や開花のタイミングを決める精巧な仕組みがあるのです。

春の七草「ハコベ」の発芽や開花を考える

春の七草の1つ、ハコベには、ミドリハコベとコハコベがあります。両種とも春に開花・結実しますが、発芽の時期は少し違います。ミドリハコベは「越年草」で、秋に一斉に発芽し、葉の状態で冬を越して春に開花・結実します。コハコベは「一越年草」で、夏や秋に発芽する個体もあれば、春に発芽する個体もあります。
両種の発芽のタイミングを分けるのは、地面の温度変化に対する種子の性質の違いです。ミドリハコベの種子は、地面の温度が高い夏の間は発芽しません。一方コハコベは地面の温度が高くても発芽します。またミドリハコベの種子は、地面の温度が低い冬は休眠しますが、コハコベは低温に遭遇すると、開花が誘導される「種子春化」が起こるため、春にも発芽します。この性質の違いには、種子に含まれる植物ホルモンの働きが大きく影響しています。

生物多様性や環境の保全につながる雑草研究

雑草にはいくつかの顔があります。食料や薬などに用いられる有用資源生物、反対に農業有害生物としての顔のほか、侵略的外来生物、絶滅危惧種としての顔です。昔から水田のあぜなどで生育してきたアゼオトギリは、環境省が2000年に行った調査で絶滅危惧IB類に指定されました。これをきっかけに研究が進み、生育地では住民らによる保全活動が進められています。こうした活動は多くの動植物がいる水田の生態系を守ることにもつながります。
雑草の研究はあまり進んでいません。今後、発芽や開花の仕組みをはじめとした生態が解明されれば、生物多様性や環境の保全、作物の生産性向上にもつながると期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

新潟食料農業大学 食料産業学部 食料産業学科 アグリコース 教授 吉岡 俊人 先生

新潟食料農業大学 食料産業学部 食料産業学科 アグリコース 教授 吉岡 俊人 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

植物学、雑草学

先生が目指すSDGs

メッセージ

農学には生物機能の開発、食料の生産、環境の保全という3つの社会的使命があります。地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の減少などが起こり、企業も環境への配慮が必要になりました。世界人口の急増で農業は成長産業となり、新しいアイデアが求められています。
そんな中で行動のヒントになるのが「Think globally, act locally」です。例えば、地域の水田環境の保全は、地球の生物多様性を守ることにつながります。農学を志向するなら、社会的使命を考え、身近なところから行動しましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

新潟食料農業大学に関心を持ったあなたは

“Farm to Table to Farm”は「農場から食卓へ、そして農場へ」という意味です。食物は、農場で生産されてから多くの人の手を経て食卓に届けられ、この流れを「フードチェーン」とよび、農場から人々の食卓まで、フードチェーン全体をつかさどる産業を食料産業とよんでいます。本学では、新しい食料産業を作り出すために不可欠な科学(サイエンス)、技術(テクノロジー)、経済活動(ビジネス)を一体的に身につけます。日本の農業を変え、さらに世界をリードする新しい食料産業をともに生み出していきましょう。