漢字が教えてくれる、日本と中国の意外な関係

漢字が教えてくれる、日本と中国の意外な関係

漢字には、どうしていろいろな読み方があるの?

中国語は基本的に一つの漢字に一つの読み方しかありませんが、日本の漢字には、例えば、行列の「ぎょう」、銀行の「こう」、行脚の「あん」、訓読みの「いく」など、複数の読み方を持つものがあります。
漢字は中国から日本に伝わりましたが、その漢字を含む熟語が伝来した時期によって、発音が異なっています。5~6世紀ごろ長江下流の呉地方から伝わった「行」の発音は「ぎょう」(呉音)、7~8世紀に遣隋使・遣唐使を通じて長安・洛陽地方から伝わった発音は「こう」(漢音)、また、宋・明・清の時代に伝わった新しい音は「唐音」と呼ばれ、「あん」はその一例とされています。
このように、日本語の漢字の音読みには、中国との交流の歴史が刻み込まれています。漢字は、日中の文化や歴史にとって大切なコミュニケーションの道具でした。

中国語と日本語、漢字の意味はすべて同じ?

中国と日本では意味が異なる漢字があります。例えば中国語の「机」は機械のこと、「湯」はスープという意味です。もとは日本語と同じ意味でしたが、中国では時代とともに意味が変化しました。
一方で、同形同義語も存在します。多くは古代中国から日本へ伝わったものですが、明治時代以降、日本で新たに作られた「哲学」「経済」「社会」「体育」などの新熟語が中国へ逆輸入され、教育・学術用語として広く使われるようになりました。現代中国語の語彙のうち、およそ6割が日本語由来という説もあります。

中国人留学生による翻訳活動の成果

清末期、先に社会の近代化に成功した日本へ留学しようとする中国人学生のために、「日華学堂」が設立されました。当時の中国では科挙制度の廃止と教育制度の近代化が進み、新しい教科書の整備が急務となっており、日華学堂出身者を中心とする「励志会」のメンバーたちは、日本の政治・経済に関する書籍を中国語に翻訳して出版する活動を展開しました。その結果、日本で生まれた新しい言葉が中国語に取り入れられ、広く普及していったのです。

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武蔵野大学 グローバル学部 グローバルコミュニケーション学科 教授 欒 殿武 先生

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メッセージ

グローバルな時代には、人やモノ、お金が国境をこえて自由に行き来できるようになりました。それに伴って、世界の人々との交流もどんどん増えています。その中で、とても大切な役割を果たしているのが「言葉」です。今ではAIの技術が進んでいて、「外国語を学ぶ意味はあるの?」と考える人もいます。でも、テクノロジーが進んでも、心の通った対話と交流は、人間にしかできません。
これからは、AIと人間がそれぞれの得意なことを活かしながら、助け合っていく時代です。言葉を学ぶことには、これからも大きな意味があるのです。

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2024年に100周年を迎えた武蔵野大学は、同年4月、ウェルビーイング学部ウェルビーイング学科を新設しました。2023年4月には、社会と環境をデザインし実現する、文理融合型の「サステナビリティ学科」を開設し、近年では、起業家精神を育成する「アントレプレナーシップ学科」や私立大学初の「データサイエンス学科」を新設。常に時代の変化を先取りし、13学部21学科の文・理・医療・情報系の総合大学へと発展・拡大を続けています。