子どもを大切にする社会を実現するために
ルソーは『エミール』で子ども観を変えた
哲学者で政治思想家、教育思想家のフランスのジャン=ジャック・ルソーは、1762年に著作『エミール』を発表しました。フランスはカトリックの国で、人間には原罪があり、日々悔い改めることで善くなるという、いわゆる性悪説が浸透していました。それに反してルソーが唱えたのは、生まれながらの無垢(むく)な子どもの善さを大切にする温かいまなざしのある性善説の子ども観でした。ルソーが提唱した「子どもの自主性や自発性を重視し、希望のある教育」は、教育界にとって画期的で、社会の価値観を根本的に変えたのです。
18世紀の子どもの苛酷な現実
1970年代後半から90年代にかけて、社会史研究の分野で18~19世紀の歴史の見方を大きく変える潮流が台頭しました。それは、それまでの支配者階級の研究ではなく、社会の大半を占める庶民の生活を明らかにする歴史研究です。
エドワード・ショーターの研究によると、18世紀の欧米では、仕事など大人の都合で赤ちゃんをゆりかごで揺すり続けて意識を失わせたり、産着をきつく巻きつけて体の自由を奪い、長時間放置したりといった虐待が明らかにされています。その結果、子どもの死亡も多発し、フランスでは匿名で子どもを合法的に手放せる「捨て子院」もありました。
『エミール』における育児批判、警鐘
こうした研究に符合する内容が『エミール』にも出てきます。ルソーは、「子どもを厄介払いして都会の楽しみにふける母親たちは、その間、動けない産着にくるまれた子どもが村でどんな扱いを受け、衰弱しているのを知っているだろうか」と嘆いています。虐待の問題は、現代の日本でも日常的にニュースとなっており、社会が油断すると子どもたちは危うい状況に追い込まれます。歴史研究とICT(情報通信技術)や統計データなどの文理両方の研究手法で教育史をひもとくと、親の責任だけではない現代社会の子育てへの援助・支援における課題、先人の警鐘が浮かび上がってくるのです。
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茨城大学 教育学部 学校教育教員養成課程 教授 小川 哲哉 先生
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