量子コンピュータで変わる世界とは
素因数分解の難しさを生かしたセキュリティ
中学で習った「素因数分解」も、15なら3×5とすぐに計算できますが、10桁の数字になると時間がかかってしまいます。大きい数の素因数分解は現在のスーパーコンピュータでも難しく、計算に数百億年を要する数もあると言われます。計算に膨大な時間がかかる数があることは、現在の世の中を守る仕組みの前提のひとつになっています。クレジットカードの決済時にカード情報が暗号化される仕組みも、大きな数の素因数分解の難しさを利用したものなのです。
量子コンピュータで高速計算が可能に?
それ以上分解ができない「量子」のふるまいを用いた並列計算により、既存のコンピュータよりも格段に高速な計算ができる「量子コンピュータ」の研究開発が進んでいます。現在のコンピュータは情報を「0」と「1」で表現し、ひとつの情報の単位を「ビット」と称します。2ビットだと、00、01、10、11の4通りの情報を持つことができます。つまりnビットだと、2のn乗通りです。一方、量子コンピュータの量子ビットは、量子が持つ「重ね合わせ」という性質を用いると、この2のn乗通りの情報を同時に持つことができるため、はるかに高速な計算が可能なのです。
多角的な技術革新を
量子コンピュータで高速な計算ができることはわかっていますが、どういう計算手順(アルゴリズム)であれば正しい答えに早くたどり着くかは、まだほんの一部しか明らかになっていません。量子コンピュータで高速な計算ができるのは、量子アルゴリズムが発見された問題だけです。素因数分解のための量子アルゴリズムが発見され、気象予測の高精度化や、新薬の開発、配達ルートの効率アップにつながる量子アルゴリズムが検討されていますが、ほかには何に使えるのかを、世界中の研究者が探している状態なのです。同時に、これまでの情報社会を支えていた暗号化の仕組みも、根本的に見直す必要が出てきます。未来の便利さだけでなく、セキュリティの技術革新も求められているのです。
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先生情報 / 大学情報
群馬大学 情報学部 准教授 高橋 康博 先生
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