明るい未来を描きにくい時代における災害復興とは
復興支援が生み出す無力感
災害復興において、支援とは暗黙の前提として「よいもの」と捉えられています。しかし実際には、復興支援をすればするほど現場が閉塞し、無力感やあきらめを引き出してしまうことが少なくありません。よりよい未来に向かって現状を変えようとする関わりそのものが、結果的に「今」を否定することにつながってしまい、そこにいる当事者たちの無力感をかえって強めてしまうのです。
被災地の「空気」に注目する
日本における災害の多くは、人口減少が進みつつある地方で発生します。「グループ・ダイナミクス」という学問では、地域住民という集団内に存在する「空気」に着目し、被災した人々の間にどのような空気が生じているのか、どうすればその空気を変化させられるのかを明らかにします。災害そのもの以外にもさまざまな課題を抱えている復興の現場では、まずは問題と向き合っている人々の主体性を回復させる必要があるのです。それには、外部からやってきた人に話をしたり、何かを教えたり、食事を振る舞ったりといった、一見すると支援とは結びつかない活動が大切です。その活動の中での、日々の暮らしの中にある何気ない豊かさや気づいていなかった価値を発見・確認していく過程が、主体性を回復させる手段として有効なのです。
「見なかったこと」を見つめるために
最近では、数年経っても被災地の風景が変化しない、いわゆる「復興しない被災地」が増えてきました。その背景には、目の前にある事実があまりにも深刻で受け入れがたいために、「見なかったことにする」問題が指摘できます。縮小しつつある社会の中では、復興に使える社会資源が減り、限られたリソースを使うことすらできないまま、見なかったことにしてしまうことでより衰退が進んでしまうのです。この問題を乗り越えるための主体や足場作りを進めることが、これから求められていくでしょう。合わせてこうした問題に取り組むプレイヤーをいかに増やすかが、ますます重要になるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 人間科学部 共生学科目 共生行動論分野 准教授 宮本 匠 先生
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社会心理学、災害復興学先生が目指すSDGs
先生への質問
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