「聴く」から「関わる」へ 人と音楽との新しい関係

音楽が「聴くもの」から変化する
音楽鑑賞は通常、再生ボタンを押して聴くだけの受動的な体験です。しかし、テクノロジーの進化によって、「聴くもの」から「関わるもの」へと変化しつつあります。鑑賞者の動きや環境に応じて変化する「インタラクティブな音楽」が生まれているのです。例えば、鑑賞者が動くことで音が変わるサウンドインスタレーションや、心拍に合わせて音楽のテンポが変化するシステムなどが登場しています。この「インタラクション(相互作用)」という概念は、単に聴くだけでなく、能動的に関わることで生まれる新しい音楽体験の要となるものです。
因果関係を再構築
池に石を投げると「ポチャン」という音がします。これも一つのインタラクションです。石の動きと音の因果関係は、物理法則によって決定されています。しかし、デジタル技術を使えば、石を投げた時にピアノの音が鳴るという、自然界にはない因果関係を作ることができます。石が落ちた場所によって異なる音階を鳴らし、メロディーを奏でることもできます。このデジタルデータを介した「因果関係の再構築」が新しい表現を作り出します。ただし、自然界の法則から完全に離れていると違和感が生じ、逆に似すぎていると単なるシュミレーションになってしまいます。そのバランスを取ることが、説得力のある作品を創る鍵です。
音でつながる新しい社会へ
コロナ禍の商業施設で、円の外に放射状に並んだ長椅子に人が座ることで音が奏でられるインスタレーション作品の展示が行われました。座る場所に応じて異なる音が鳴り、その音の連続でメロディーが生成されます。この作品は、コロナ禍で人と人との距離が広がった時期に、無意識のうちに音でつながる体験を通して、他者との関係性を感じさせる仕組みとして注目を集めました。今後は、純粋なアート作品としてだけでなく、実際の生活空間に導入できる実用的な形で、より多くの人がインタラクティブな音楽や音と動きの関係性を楽しめるようになることが期待されています。
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愛知東邦大学 経営学部 コミュニケーション・デザイン学科 准教授 日栄 一真 先生
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