現代人のメディア利用から見る人間のコミュニケーション
携帯電話を2週間使わないで過ごしたら?
「携帯電話やスマートフォンは、友だちとのコミュニケーションに欠かせない」と考える人は多いかもしれませんが、本当にそうでしょうか。ある研究で、大学生9人の携帯電話を2週間使えなくする実験が行われました。最初の2日ほどは「友だちと連絡が取れなくてつらい」と語った大学生たちでしたが、後半になると違う反応を見せ始めました。「本当に連絡を取りたい友だちはごく少数で、その人とは直接会う機会が増えた」「携帯電話は『それ以外』の人たちを増やすだけの存在だった」と言うのです。携帯電話は「知り合い」を増やしたかもしれませんが、「大切な人」は携帯電話があってもなくても変わらなかったのです。
発達課題に応じたメディアの使われ方
心理学には「発達課題」という考え方があります。それぞれの年齢区分に求められる発達的な目標のことを指しますが、心理学者のハヴィガーストは、青年期の発達目標のひとつに「洗練された対人関係の構築」を挙げました。この理論に沿えば、高校生や大学生がメディアを使って活発にコミュニケーションをとるのは健全な行為と言えます。
上記の実験から数年後、社会人となった大学生に再インタビューしたところ、携帯電話の使用は仕事関連が多くを占め、友だちとのコミュニケーションは激減していました。就職で社会的責任が増え、発達課題が変化したことで、携帯電話の使い方も大きく変化したのです。
よりよく生きるために
現代社会で生きていく以上、メディアのない生活を送ることはできません。そして、メディア環境はこれからも変化し続けるでしょう。しかし、メディアの使い方と発達課題がリンクしているという研究を通して見えてきたのは、メディアを使う私たち人間の心理やコミュニケーション行動が大きく変わることはないということです。利用者の心理や行動からメディアの在り方を見直すアプローチは、人間がより幸せに生きるためにはメディアをどのように使えばよいかというヒントを与えてくれます。
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先生情報 / 大学情報
東洋英和女学院大学 国際社会学部 国際社会学科 教授 小寺 敦之 先生
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