泣いたらすぐ抱っこ? 抱かない? 日本とフランスの保育の違い
泣いても抱かない
日本の0歳児保育室では、赤ちゃんが泣くとすぐに抱っこをして、泣き止ませようとあやすことが多いです。でも、こうした保育の様子を見たフランスの保育者は、一様に驚きます。せっかく泣き始めた赤ちゃんをすぐに抱き上げてしまうことを、フランスの保育者が習う保育理論ではあまり推奨していないからでしょう。フランスの保育では、赤ちゃんが泣いても「どうしたの? 嫌なことがあるなら言ってごらん」などと話しかけながら、無理に泣き止ませることはしません。泣き止ませるのは大人の都合であり、本人が泣き始め、泣きたいという意志があるのならば、それを赤ちゃんの思いとして大事にするからです。
子育ての背景
日本では、平成10(1998)年度の厚生白書に「三歳児神話に合理的な根拠は認められない」と記されるまで、子どもは3歳まで母親だけで育てることが望ましいと考えられていました。フランスとの保育の違いには、母と子どもが離れて過すことへの否定的な見方が慣習として残っており、保育の現場でも「寂しくて泣かせるのはかわいそう」という意識が根底にあるのかもしれません。
一方、フランスにはかつて、赤ちゃんを里親に出し、ある程度大きくなってから親が育てるという習慣がありました。赤ちゃんにとって保育の場は、赤ちゃん自身が自分に向き合うことのできる大切な場であり、母子分離を肯定的に捉える風土がフランスにはあります。保育者に、独立した一人の人間として扱われることで、赤ちゃんは親以外の他者を通して自分自身を知っていくと考えられています。
社会に適応した保育
フランスの保育方法を知ったからといって、一概にフランスの方法を見習うべきとは言えません。日本の乳児保育では、赤ちゃんは心地よく泣き止ませてもらっており、この泣いたらすぐに対応してもらえるきめ細かな人間関係の経験が、人の気持ちを察して行動する日本の社会の基盤をつくっていると考えられます。私たちが大切にしている価値観に外国の保育を通して気づいていくことが保育者には必要でしょう。
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東洋英和女学院大学 人間科学部 保育子ども学科 教授 塩崎 美穂 先生
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