睡眠を科学する 睡眠不足とパフォーマンスの関係

睡眠を科学する 睡眠不足とパフォーマンスの関係

睡眠と心身状態

あなたは普段、何時間寝ていますか? 必要な睡眠量には個人差がありますが、米国睡眠医学会は、13~18歳の人が心身とも健やかに発達するには1日8~10時間の睡眠をとることを推奨しています。日本の高校生の平均睡眠時間は約6時間で、働き盛り世代も睡眠時間が短く、日本は世界有数の「睡眠不足大国」です。睡眠不足だと勉強しても記憶が定着しづらい、部活で力を発揮できない、イライラしやすいなど、心身の機能が低下します。こうした睡眠と心身の関係を科学的に解明することは、睡眠科学で扱う研究テーマの一つです。

9段階評価で解く「寝つきの悪さ」のナゾ

調査研究によって、「寝つきの悪さ」は「不安の高さ」に関連することがわかっています。睡眠状態は脳波などの生理指標で評価しますが、入眠時は「半分眠って半分起きている状態」で、生理指標も短い時間で細かく変化します。実験的に不安を喚起させた人の入眠時の脳波を9段階の細かな基準で評価したところ、脳波が眠りの状態になかなか移行しないことが明らかになりました。一般的な睡眠検査では、5段階の国際標準判定基準が用いられます。しかし、これだと「寝つきが悪い」状態の脳波を正確に評価しにくいという問題点がありました。より細かな9段階の基準で「寝つき」の状態を検討した結果は、寝つきが悪いという主観的な評価は客観的な指標の変化を伴う、ということを示す重要なものとなりました。

「眠気」は気づかぬうちに鈍くなる

日中の眠気や寝不足の影響も睡眠科学の重要なテーマです。実験では、睡眠不足が蓄積するにつれて認知テストのケアレスミスは上昇する一方で、眠気はそれほど上昇しませんでした。つまり慢性的に寝不足な人は、パフォーマンスが下がっていることに気づかないでいる可能性があります。日本には、不眠不休で努力することを美徳とする傾向がありますが、睡眠問題による社会的損失は年間約3.5兆円です。睡眠と認知機能に関する研究は、日本人の睡眠の重要性に対する認識を変えるきっかけになるかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

愛知淑徳大学 心理学部 心理学科 准教授 成澤 元 先生

愛知淑徳大学 心理学部 心理学科 准教授 成澤 元 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生理心理学、睡眠科学、時間生物学

メッセージ

心という目に見えないものを数値によって見える形にし、科学的に検討する学問が心理学です。好きな人を目の前にするとドキドキしたり、うれしいと笑顔になったり、不安があると寝つけなかったり、心の状態は様々な形で身体に表れます。つまり、心理学は身体についても学ぶ必要があり、「人間」を理解することを目指す学問といえる点が奥深く、面白いと思います。特に睡眠に関する研究はまだ100年程度の歴史しかありません。解明されていないことが多いのですが、わからないことを発見するプロセスこそ学問の醍醐味といえるでしょう。

愛知淑徳大学に関心を持ったあなたは

愛知淑徳大学は、9学部13学科13専攻を擁する総合大学です。「違いを共に生きる」の理念のもと、常に新しい時代に対応できる人材の育成をめざし、独自の学びのシステムを展開しています。実社会で生かせる力や資格取得を目標とし、多様な知識と技術を身につける「全学共通教育」と、学部・学科ごとの専門分野を追求する「専門教育」で、高度な専門知識と実践力、豊かな人間性を養います。総合大学のメリットを生かし、学部・学科の枠を超えて学べる教育環境も整備。学生一人ひとりの学ぶ意欲に応えます。