カーボンニュートラルを後押しする「天候デリバティブ」
再生可能エネルギーにシフト
日本では2016年に電力の小売完全自由化がスタートし、電気事業者が各地に増えました。さらに2020年、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする、「カーボンニュートラル」をめざすと宣言しました。そこで電気事業者には、供給する電力を風力や太陽光などの「再生可能エネルギー」にシフトする動きが強まっています。ただし再生可能エネルギーは、発電量が天候などに大きく左右されるリスクも抱えています。
天候デリバティブでリスクを低減
風力発電や太陽光発電において、発電量の変動で電気事業者に生じるリスクを低減(ヘッジ)する研究が進んでいます。リスクヘッジには、金融機関などが提供する「天候デリバティブ」という商品が用いられます。風速や気温などの天候の指標に基づいて、事業者の実際に生じた損失が補償される仕組みです。デリバティブ契約の支払額(損失補償額)は、天候指標に連動する関数として事前に取り決めておく必要があります。そこで重要になるのは、リスクを効果的かつ効率的に軽減できる取引の仕組みづくりです。ヘッジの効果を個社別に最適化する天候デリバティブは、事業者と金融機関の1対1の契約が前提となりますが、この研究では電気事業者が全国に分散している点にも着目し、各地域の天候データに基づいた細かな天候デリバティブが多数作られました。各地域の事業者が、自分たちに合った天候デリバティブを組み合わせて使えるような市場取引の仕組みを提案したのです。実証分析の結果、多様な天候デリバティブを取引する方が、効率的にリスクヘッジできるという結果が得られました。
カーボンニュートラル実現のために
もともと電力は発電した瞬間に消費しなければならない特殊性があり、需要と供給を一致させるのが極めて難しい商品です。加えて天候の変動の影響を受けやすい再生可能エネルギーへのシフトが進むなかで、電気事業者のリスクヘッジのための研究の重要性が高まっており、数学を用いた経済学の知見が求められています。
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金沢大学 融合学域 先導学類 准教授 松本 拓史 先生
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