おいしい鹿肉を召し上がれ 社会課題の解決を図る鹿肉利用

おいしい鹿肉を召し上がれ 社会課題の解決を図る鹿肉利用

鹿による被害

現在、全国各地で鹿によるさまざまな被害が発生しています。鹿が山から人里に下って農産物を食い荒らすケースもあれば、反対に山に上がって斜面の植物を食べ尽くしてしまい、植生を乱すケースや、地崩れや土砂の流出などの被害が懸念されるケースもあります。そのため鹿の駆除が行われていますが、駆除されたほとんどの鹿は廃棄処理されています。食用としては近年増えてはきましたが20%程度しか利用できていません。

臭くて硬い鹿肉

鹿が食用に利用されない一番の理由は、臭いが強くて硬いからです。そのため、鹿肉を食べてもらうには、これらの解消が重要な鍵です。近年では、最新技術を駆使した「フードテック」により、食材の改良が容易になりました。例えば、通電処理を行うことで、硬い肉を柔らかく加工できます。さらに、肉のまま食べるだけでなく、科学的な処理を行うことで肉をエキス化したり、呈味成分を抽出することも考えられます。出汁としての使用や、さらに味を加えてしょうゆのような調味料として使えば、新たな商品として打ち出せるでしょう。加えて、鹿を食べたいと思わせる付加価値も必要です。鹿肉をエキス化したものを線虫に与える実験をしたところ、寿命が延びる効果が見られました。このことから、健康食品としての提案も期待できます。

未来の食卓

これまで食べられなかった食材が日常的に食べられるようになった例は、実はとても多く存在します。例えばトマトは、南米からヨーロッパに持ち込まれた際は観賞用であり、食べ始められたのは持ち込まれてからおよそ200年後でした。このような事例から考えると、食経験のある鹿肉がこれから日常的に食べられる可能性は十分に考えられます。現在の日本の食料自給率は非常に低く、将来の食料危機に備えて国内の食料の有効利用は大きな課題です。
その点においても、鹿肉は注目されるべき食材だといえるでしょう。鹿肉の利用は、単なる食材の有効活用だけでなく、環境保全や食料自給率の向上に寄与する可能性を秘めているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

長野県立大学 健康発達学部 食健康学科 准教授 小木曽 加奈 先生

長野県立大学 健康発達学部 食健康学科 准教授 小木曽 加奈 先生

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生活科学、農芸化学、食品科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

食べ物の好き嫌いは誰にでもあるものです。その食べ物を、どうして食べたくないかを考えたことはありますか。そして、その理由を解消する方法はないでしょうか。姿がわからないように刻めば大丈夫かもしれません。それでも駄目ならつぶしてペースト状やエキス状にしたらどうでしょうか。丸ごとでは食べにくいものでも、粉にして加工すると食べやすくなりませんか。身近なところに問いを立て、それを解決するにはどうすれば良いのか考えることが、研究の第一歩です。

長野県立大学に関心を持ったあなたは

長野県立大学は、2018年4月に長野市に開学した県立大学です。
グローバルな視野を持って未来を切り拓き、イノベーションを起こし、新たな価値を創出する”地域のリーダー”となる人材を育成しています。
グローバルマネジメント学部(グローバルマネジメント学科)と健康発達学部(食健康学科、こども学科)の2学部3学科を置いています。大学の特長としては、1年次全寮制、2年次全員参加海外プログラム、少人数教育があげられ、3~4年次にはアクティブラーニングで専門分野の知識を深めます。