医学・生物学の発展を助ける「実験動物学」
求められる均一な実験動物
動物を使った実験は、病気の解明や治療法の向上のために重要な役割を果たしています。事象を科学的に証明する場合に重要なことは再現性ですが、動物の個体ごとに生まれ持った体質や生育環境による性質が異なっていると、実験結果にばらつきが出てしまいます。そのため、質が一定の動物を生み出すというのが実験動物学の考え方です。実験動物には繁殖が容易で、均一な環境が整備しやすいマウスやラットなど小型の動物を多く使用します。
すべて遺伝子が同じ「近交系」
動物の個体差は遺伝と環境の2つの要素によって決まります。このうち、室温やエサなどの環境は人工的に一定に揃えることができます。それでは遺伝的なばらつきはどう整えたらよいでしょうか。動物実験で一番多く使われるマウスは一度に10匹程度の子どもを産みます。子どもの中からオスとメスを選び交配する兄妹(けいまい)交配を20回繰り返すと、すべての遺伝子が同じタイプに固定されます。おじいちゃんも孫も、毛の色から血液型までのすべての情報が同じマウスなのです。「近交系」と呼ばれるこれらの動物は、マウスだけでも世界中で何百系統も登録されています。
遺伝子改変技術を応用する
研究のためには、動物を病気にさせる必要があります。今までは環境を変えたり、薬剤を与えたりしていましたが、この方法では個体により発症のばらつきが出てしまいます。近交系を育てていると、体の大きさや毛の色が違う、震える、動き回るなどの突然変異体が偶然発生する場合があります。近交系の中から、人間の病気に似たものを選び出し、新たな近交系(疾患モデル系統)を育成することも行われています。
さらに、最近は受精卵のレベルで遺伝子を改変するES細胞やゲノム編集の技術が発達し、人と同じ病気のタイプを作り出すことができるようになりました。動物実験は医学・生物学の発達に欠かせないものですが、医学・生物学と農学の境界にある実験動物学がそれを支えているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授 庫本 高志 先生
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