平安時代の価値観がリアルによみがえる日記文学
娯楽作品にも負けないノンフィクション
現代社会では、SNSで拡散されるインフルエンサーのリアルライフが人気です。どんなに面白いフィクションがあふれていても、ノンフィクションもまた、人々に好んで読み続けられてきました。平安時代に書かれた『更級日記』や『蜻蛉日記』、『和泉式部日記』などは、当時のリアルな日常をたくさん含んでおり、時代を超えた魅力が感じられます。こうした日記文学の研究には、ノンフィクションならではの手法があります。
『源氏物語』の愛読者
『更級日記』は平安時代に貴族の娘として生まれた菅原孝標女が、晩年に記した幼少期からの回顧録です。脚色や誇張もありそうですが、当時の貴族女性の一生やリアルな日常生活がうかがえる貴重なノンフィクションといえます。作者は『源氏物語』の熱狂的な読者でした。そして、物語中の夕顔や浮舟のような「悲劇のヒロイン」に憧れていたと書いています。結婚した後は、とうとうあのヒロインたちのようになれなかった、と嘆いているのです。なぜ彼女は幸せではなく悲劇を望んだのでしょう。悲劇に憧れる感覚は当時としても彼女特有のものなのか、それともぜいたくに飽きた貴族社会全体の傾向だったのか、日記文学の研究としてさまざまな問いを立てることができます。
当時のリアルな価値観と結びついた魅力
平安貴族の日記を読み解くと、当時の「ものの感じ方」や感情表現について、さまざまなことがわかってきます。例えば、同じ形容詞でも時代によって意味が違うことは多々あります。あるいは儀式で失敗した人を全員で笑いまくるなど、現代の感覚とは違う感情の表出が見られて驚かされることもあります。書かれた出世願望や挫折についても、平安時代の貴族女性が実際に出世意欲を持っていたのか検証することで、学問としての読解が深まります。
人間のリアルな価値観と結びついた古典文学を研究すると、平安時代の社会と人々が感覚としてもリアルによみがえってきます。いわば、時代を超えた永遠のみずみずしさが、平安文学の魅力なのです。
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