人々が自然に助け合う社会、協力が報われる社会をつくるために

人々が自然に助け合う社会、協力が報われる社会をつくるために

人は「見えない助け合い」の中で生きている

現代社会の中で生きていると、日々享受している環境や暮らしは、すべて自分の努力次第であるかのように感じられがちです。しかし本当にそうなのでしょうか。人の行為の意味は他者に依存し、一人でできることは限られます。自分を取り巻く大きな社会のメンバーとなり、その中で見えない助け合いの力が働くことで、個人の生活が成り立ちます。

社会の中の「助け合い」には仕掛けが必要

「目に見えない助け合い」は、善意に頼るだけでは成立しません。人は自分や身近な人のためには、自発的に助け合いの行動を起こすことができます。しかし、対象が「社会のため」「みんなのため」に広がり、自分とは距離のある不特定多数の人のためとなるとどうでしょうか。自分の寄与が波及し結実する保証がないために、協力へのインセンティブが働かないのです。
そのため、誰もが必要だと思っていても、実際には誰も手をつけずに社会問題が生じ、その解決も遅れます。例えば、ゴミ処理場や保育園の建設はわかりやすい例のひとつです。誰もが必要性を認めながらも、臭いや騒音などが迷惑だとして住民からは反対されがちです。罪を犯した人の更生や障害者の社会参加に関しても同じような事態がよく生じます。視野を広げて、住環境・働き方・公教育などでも多様な機会が必要なことはわかっていても、一人ひとりにできることは少なく、結果的に偏った社会状況になってしまいます。協力に踏み出すには仕掛けが必要です。

全社会的に協力を波及させるために

「誰にとっても必要だけれど、誰にも動機が乏しい」問題を「集合行為問題」と言います。現代社会で生じている数々の問題が、この集合行為問題と関連しています。社会をより良いものにするためには、具体的状況での人々の考え方や行動の仕方を理解し、精神論に頼らず構造的に理解する必要があります。その理解を踏まえて、協力が実を結ぶことが期待でき、協力に踏み出せる条件を整えることが、広義の福祉国家プロジェクトの意義なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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岩手県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授 高橋 聡 先生

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メッセージ

世の中を少しでも良くしたいと望むとき、多くの人はどう行動すればいいかと考えるものです。しかし社会科学系の学問における理論構築も、社会を変える大きな力を秘めた実践的な活動のひとつなのです。社会の中で注目されている論点や場面場面での価値判断を多角的に理論化することで、人の行動や考え方に新たな可能性が生まれます。大学ではひとつの学問領域にとらわれず、さまざまな学問領域を横断して研究し、その向こう側にある本質的なものを探していく、そういう姿勢が大切なのではないかと思います。

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大学は「知識」を得る場であるだけではなく、「人生の目的」を考える場であり、これからの人生で自分は何をなすべきかを探求する場でもあります。人はそれぞれ固有の素質と能力を持っています。それをいかに見出し、育成していくかが教育の最大課題であると考えています。この大学での貴重な学習期間に、自己の能力と個性を伸ばし、適性を見出すことに努めてください。本学の教職員は、全力を挙げてこれに協力します。