保育の環境は保育室だけじゃない! 通園バスが果たす大切な役割

通園バスの現状
通園バスは8割以上の私立幼稚園と一部の保育所・認定こども園で運行されています。子どもの乗車時間は、長い場合で往復合計1時間前後ともいわれ、これは園庭や遊戯室で過ごす時間に勝るとも劣りません。しかし、国の「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」には通園バスについての言及がありません。また、安全対策や事故予防策について議論されることはあっても、通園バスが子どもの育ちや保育全体のシステムのなかで果たしている役割について話題に上ることはほとんどないのです。
子どもを育み地域をめぐる通園バス
しかし、実際に通園バスに同乗して子どもたちの発言や行動を記録し分析してみると、彼らはバス内で非常に豊かな体験をしていることがわかります。例えば、バス停で摘んできた草花を交換したり、園から借りた絵本を一緒に読んだり、週末のできごとを話したりしています。低年齢の子どもとの関わりを通して、クラスでは見えないような面倒見のよさを発揮する子もいます。つまり通園バスは、子どもたちがワクワクするような経験をしたり、一日のできごとを振り返ったり、これからの生活への期待を高めたりする、一つの保育環境として機能しているのです。
同時に、通園バスが取り持つ人と人との交流体験も見逃せません。例えば運転手は、多くの場合で入園から卒園まで一人の子どもに継続的に関わる貴重な存在です。また、運転席から地域の卒園生とあいさつを交わす機会もあり、園と地域とをつなぐ架け橋ともなっています。
子どもを取り巻く環境の「枠」を拡げる
従来、幼児教育や保育についての研究の多くは、保育室や園庭における幼稚園教諭・保育士の活動を対象として行われています。一方で、通園バスをはじめとしたそれ以外の場所の価値、栄養士、警備員、バス運転手など「保育者以外の人」の魅力については見逃されてきました。人は環境によって育てられるものです。より豊かな保育を実現するために、保育環境の「枠」を拡げ、活かすための研究が広く進められています。
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共立女子大学児童学部※2026年4月開設予定 准教授境 愛一郎 先生
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