視覚情報によって生じる力覚の錯覚
ないはずの抵抗
コンピュータの画面のポインターの動きが実際のマウスの動きよりも遅くなると、マウスを持つ手に存在しないはずの抵抗を感じることがあります。これは、視覚情報と身体動作の不一致から生じる錯覚、いわゆる疑似触力覚といいます。この原理は、身体的な動きを伴うバーチャルゲームなどに応用されています。
なぜ、疑似的な力覚が生じるのか
この原理を利用すると、視覚情報を変えるだけで重さや抵抗感をユーザーに知覚されることができます。例えば、VR環境で人が歩く際に、歩くスピードに伴って風景の流れや歩く人の映像を意図的に遅くします。すると脚には一定の抵抗感が感じられます。また、重い物を何度も持ち上げる際に、本来よりも早く持ち上がるような映像を与えると、物が軽く感じられて持ち上げる回数が増えることがあります。錯覚によって軽く感じたりするのは、心理的な影響によるものです。つまり脳は、物を持ち上げる際の身体的な作用よりも視覚的な作用を優先して判断しているのです。
福祉用具やリハビリテーションへの活用
研究では、錯覚が心理面と身体面にどのような影響を及ぼすかを、生体信号などを分析して定量的に評価しています。例えば、ペダル運動中に、ユーザーに実際の運動よりも変化が少ない運動の映像を提示すると、ユーザーは抵抗感を感じます。このとき、筋の活動に変化が起きています。錯覚による運動効果を定量的に表すことで、運動トレーニングでの強度調整などへの運用につながると考えられます。一方で、錯覚の効果は人によってばらつきがあります。福祉やリハビリテーションへの活用には、誰もが錯覚を感じられる情報呈示の仕組みを考える必要があります。
このような技術を福祉用具に取り入れることで、大きなスペースのない自宅のような環境でも、市販のVRゴーグルなどを使った健康増進が可能になるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
職業能力開発総合大学校 総合課程 機械専攻 教授 池田 知純 先生
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