哲学的な問いに実験で迫る「実験心理学」

哲学的な問いに実験で迫る「実験心理学」

止まっているエスカレーターでつまずく

故障で止まっているエスカレータに乗ると、つまずきそうになったり、違和感を覚えたりすることがあります。これは、過去の動いているエスカレータに乗った経験にしたがって、自分の体の動きを無意識に調整して、自分の重心を前にしたり後ろにしたりするからです。通常自分の体の動きは、耳の奥にある三半規管などの平衡感覚器官によって検出されますが、実は視覚による情報も大きな役割を果たしているのです。遊園地のアトラクションで、自分は動いていなくても周りの景色が動くことで、自分も動いているように感じるのもそのためです。

実験を通じて認識の在り方を考える

「人間は自分との関連で世界の環境をどのように認識しているのか」という哲学的な問いに対して、実験を通じて科学的にアプローチするのが「実験心理学」という研究分野です。見る(視覚刺激)ことによって、自分の体が動いていなくても動いているように感じられる現象は「ベクション(視覚誘導性自己運動知覚)」と呼ばれ、実験による研究が進んでいます。120インチほどの大型スクリーンに、さまざまな条件の映像を映し出して、それを見る人がどの条件で自分の体の動きを強く感じたかを測定してデータを分析していくのです。ベクションの研究は古く、100年以上も前に発見された現象ですが、近年でも特に日本を中心として盛んに検討が重ねられています。

ベクション研究の意義

ベクションという現象は、視覚刺激が外界の情報のみならず、観察者自身の情報をも伝達可能であることを示しています。この現象の研究により、人間の認識の基礎を理解することができるのみならず、バーチャルリアリティにおけるリアルな自己運動の表現やシミュレータ酔いの防止など、我々の生活に役立つ応用が期待できます。

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先生情報 / 大学情報

日本福祉大学 教育・心理学部 心理学科 教授 中村 信次 先生

日本福祉大学 教育・心理学部 心理学科 教授 中村 信次 先生

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知覚心理学

メッセージ

心理学を学ぶ上で最も重要なことは、「人に対して興味を持つこと」です。もちろん、心理学を学ぶ上では統計や数学の知識は欠かせませんし、英語の文献を読むこともあります。しかし、それらのことは大学でいくらでも勉強できます。私自身はもともと哲学に興味があり、哲学を学ぼうと思って進学しました。大学での学びの中で、哲学的な問いに実験という科学的な手法でアプローチする実験心理学に出会い、学びを深めて現在に至ります。「人に対して関心がある」という人は、心理学を学んでみてはいかがでしょうか?

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1953年の創立以来、卒業生は約9万人。全国に広がる卒業生ネットワークは、全国各地で就職を強力にバックアップしています。卒業生は福祉・医療、ヘルスケア部門を展開する一般企業や流通・商社、金融・保険、運輸・サービス、情報系の企業など、さまざまな分野にも進出。全国で幅広い分野での活躍が期待されます。また、本学では公務員・教員採用試験合格のために対策講座に力を入れており、多数の卒業生が、地方自治体、官公庁、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校などで活躍しています。