哲学的な問いに実験で迫る「実験心理学」
止まっているエスカレーターでつまずく
故障で止まっているエスカレータに乗ると、つまずきそうになったり、違和感を覚えたりすることがあります。これは、過去の動いているエスカレータに乗った経験にしたがって、自分の体の動きを無意識に調整して、自分の重心を前にしたり後ろにしたりするからです。通常自分の体の動きは、耳の奥にある三半規管などの平衡感覚器官によって検出されますが、実は視覚による情報も大きな役割を果たしているのです。遊園地のアトラクションで、自分は動いていなくても周りの景色が動くことで、自分も動いているように感じるのもそのためです。
実験を通じて認識の在り方を考える
「人間は自分との関連で世界の環境をどのように認識しているのか」という哲学的な問いに対して、実験を通じて科学的にアプローチするのが「実験心理学」という研究分野です。見る(視覚刺激)ことによって、自分の体が動いていなくても動いているように感じられる現象は「ベクション(視覚誘導性自己運動知覚)」と呼ばれ、実験による研究が進んでいます。120インチほどの大型スクリーンに、さまざまな条件の映像を映し出して、それを見る人がどの条件で自分の体の動きを強く感じたかを測定してデータを分析していくのです。ベクションの研究は古く、100年以上も前に発見された現象ですが、近年でも特に日本を中心として盛んに検討が重ねられています。
ベクション研究の意義
ベクションという現象は、視覚刺激が外界の情報のみならず、観察者自身の情報をも伝達可能であることを示しています。この現象の研究により、人間の認識の基礎を理解することができるのみならず、バーチャルリアリティにおけるリアルな自己運動の表現やシミュレータ酔いの防止など、我々の生活に役立つ応用が期待できます。
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