「PACAP」は脳からの情報を伝えるマルチなメッセンジャー
情報を細胞に運ぶ
細胞から細胞へとさまざまな情報を伝達するメッセンジャーの役割を果たしているのが「ペプチド」です。中でも神経ペプチドは、脳からの指令を神経細胞に伝えるほか、睡眠や呼吸の調整、体温調節や摂食行動など生命維持に欠かせない重要な情報伝達を行っています。
ペプチドが運んだ情報伝達物質を、細胞側の受容体が認識してはじめて細胞内に指令が届きます。受容体は通常それぞれに対応するペプチドからしか情報を受け取れず、いわばカギとカギ穴のような関係になっています。
視床下部の「多機能ペプチド(PACAP)」も神経ペプチドの一つですが、その最大の特徴は受容体が多いという点です。
細胞再生で脳梗塞や認知症予防を
PACAPは合鍵のようにいろいろな受容体、つまり神経細胞に情報を伝達できます。また酸性を高めてシグナル伝達を活性化し、神経細胞の死滅を抑制する作用があります。PACAPは受容体が多く、さまざまな神経細胞にこの抑制作用を働きかけることができる汎用性の高い神経ペプチドなのです。
例えば脳梗塞や脳内出血などを引き起こす、「虚血」と呼ばれる一時的に脳に血流が流れなくなる状態がありますが、PACAPの投与により予防できると考えられます。
また、神経細胞を再生する働きがあることも研究の中で明らかになってきました。脳の中で神経細胞が再生する場所の一つが記憶をつかさどる「海馬」です。海馬の神経細胞は虚血に弱いため、血圧低下や心停止などで血液が脳に回らなくなると細胞死が起こりやすいのです。それを再生できれば、認知症や脳梗塞の後遺症などの治療にも貢献できると考えられます。
PACAP活用で広がる可能性
PACAPはほかにも涙腺や唾液腺、汗腺などの分泌腺や末端の臓器にも受容体があり、さまざまな病気の予防や治療に役立てるものと考えられます。PACAPの活性作用を利用する研究が進めば、細胞死を抑制したり、神経細胞を再生させたりと、再生医療や予防医療に大きく貢献できることでしょう。
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湘南医療大学 薬学部 医療薬学科 教授 塩田 清二 先生
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