出生率の低下を防ぐ カギは「年金制度」に対する個人の意識
少子高齢化はなぜ問題なのか
少子高齢化とは現役世代に対する高齢者の人口が増加することをいいます。少子高齢化がもたらす社会的な問題の一つとして「賦課(ふか)方式型年金制度」の維持危険性があります。これは、現役世代が支払う保険料を、その時代の高齢者が受け取る年金制度です。日本をはじめとする先進国の多くはこの賦課方式を採用していますが、この方式は人口減少や高齢化が進むと、年金制度を維持するのが困難になります。
子どもに年金を期待すると
賦課方式の年金制度が出生率や貯蓄に与える影響を、数学的にシミュレーションしたマクロ経済の研究があります。これには、異なる世代の個人が共存し、経済活動を行う「世代重複モデル」を用いています。そして若年世代が自分の子どもを持つ際に、子どもが将来自分たちの年金を支えると「考えない」場合をケース1、「考える」場合をケース2と設定してシミュレーションを行いました。するとケース1では、高齢化に伴い出生率も低下することが示されました。これは、高齢化社会では現役世代が自分の老後のために貯蓄に励み、子どもを持つ余裕がなくなるためと推測されます。他方のケース2では、高齢化においても出生率が下げ止まることが示されました。
政策提言に役立つ理論研究
この研究結果からは、子どもを持つ前の人生の早い段階で、年金制度に関する理解を深めてもらうことが、少子化対策として有効だと考えられます。例えば学校教育や広報活動を通じて、年金制度が将来の生活にどう影響するかを知らせることで、出生率の低下を防いでいくのです。
このほかにも、世代重複モデルを用いた理論研究は、効果的な税制や社会保障制度の設計といった、長期的かつ世代間の影響を伴う問題への政策提言に役立つことが期待されます。日本だけでなく欧米や中国など、少子高齢化や移民の受け入れなどで人口構造が変化している国々でも、研究が活発に進められています。
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