意義ある開発援助を目指すには? 政策の効果を読み解く開発経済学

コロナ禍での国際送金はどうなった?
コロナ禍が始まった当初、国際機関はパンデミックによる世界経済の悪化で国際送金が20%以上減少すると予測し、途上国の経済にも大きなダメージをもたらすことを懸念していました。しかし実際は国際送金の減少率は1%程度で、ほとんど変化しなかったのです。
その背景を知るために、日本で働く外国人労働者を対象に調査が行われました。その結果、コロナ禍に外国人労働者にも支給された「特別定額給付金」を受けた時期に、普段より多く送金していることがわかりました。これにより、先進国の景気対策が国際送金を通して間接的に途上国に住む外国人労働者の家族の生活を支えていたという事実が明らかとなりました。
条件付き現金給付政策の効果
今、多くの途上国では、「条件付き現金給付政策」という社会保障政策が実施されています。例えば、子どもにワクチンを打たせたり、学校に行かせたりすれば、貧困家庭の母親に現金給付されるという政策です。
一般的に、現金給付を受けるなど収入が増加した家庭はエンゲル係数(支出に占める食費の割合)が下がるはずですが、この政策を受けた家庭は逆に上昇する傾向にあることが多くの研究で判明しています。そのメカニズムを調べると、母親に現金を給付することや、栄養指導による知識の向上、母親の家庭内での強いリーダーシップが家庭の支出の構成に影響を与えてエンゲル係数を押し上げている可能性がわかったのです。
事象の背後にある因果関係やメカニズム
これらは近年開発経済学の研究でよく採用されている、「因果推論」の手法を使ったデータ分析の例です。例えば前述のように、途上国の社会保障政策の効果を測定するために、国際送金の動きや一般家庭の支出構成の変化を分析します。分析するデータは、直接アンケートの形で収集することもあれば、インターネット上の検索データなどビッグデータを使うこともあります。そのようなデータから、政策の効果や事象の背後にあるメカニズムを解明し、より効果的な政策立案へのヒントを探ります。
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共立女子大学国際学部 講師中村 信之 先生
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