「適応制御」でシステムの動作をシンプルにコントロール

「適応制御」でシステムの動作をシンプルにコントロール

動的なシステムに不可欠な「制御」

ロボットやエンジンなど、動きを持ったシステムを適切に動かすためには「制御」が必要です。身近な例ではエアコンの温度制御があります。エアコンに使われているのは、室温の現在値と設定値の誤差やその微分積分値をフィードバックする「PID制御」です。PID制御は人間の判断の仕方と似ており、一般に広く使われていますが、より複雑なシステムの制御には対応できない場合があります。例えば、車のエンジンの制御には動作実験を何度も繰り返して結果のパターンごとに対応を決めていく「マップ制御」が使われています。しかし、マップ制御は非常に複雑でエンジンに適合させるのに時間がかかり、熟練した技術も必要であるため、よりシンプルかつ性能の良い制御のアルゴリズムが求められています。

新しいアルゴリズムの制御

PID制御よりも高度な制御が可能で、マップ制御のように複雑ではない新しい制御として研究されている手法の一つに「適応制御」があります。適応制御はフィードバック形式の制御理論で、システムの不確かさをオンラインで感知して、リアルタイムで制御器を自動調整する制御手法です。車のエンジンのほか、ハイブリッド車のモーターとエンジンを効率よく切り替えるエネルギーマネジメントなどへの応用が期待されます。

AIを使ったさらにスマートな制御も

制御の研究で一番大切なのは、システムの安定性を保証することです。システムが不安定になると故障や事故につながりかねないため、確実に安定するような制御理論を構築しなければなりません。その上で実際に応用して問題がないかを確認します。例えばエンジン用であれば、まずコンピュータでシミュレーションを行ってから、実験用のエンジンに適用するのです。この過程で予想外の不具合が見つかった場合は、理論に戻って修正するというサイクルを繰り返して改良を重ねます。
最近では、適応制御にAIを取り入れて、世の中のさまざまなデータを有効活用した、よりスマートな制御手段の開発も進められています。

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先生情報 / 大学情報

熊本大学 工学部 機械数理工学科 教授 水本 郁朗 先生

熊本大学工学部 機械数理工学科 教授水本 郁朗 先生

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機械力学、制御・システム工学

メッセージ

工学の研究には、探究心や好奇心のほか、基礎からこつこつと学んでいく地道な努力が必要です。そうした基礎の積み重ねが、新しい発見や今まで解けなかった問題の解決につながっていくのだと思っています。研究に大切なひらめきも、基礎的な知識の土台があってこそ、感性と結びついて生まれてくるものです。感性を大事にして、地道に努力できる忍耐強さを養うとともに、自分が没頭できることを見つけてください。努力があまり得意でないという人も、自分の好きなことならきっと楽しく取り組めるはずです。

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