「待つことの心理学」時間はものの価値にどんな影響を与えるか

「待つことの心理学」時間はものの価値にどんな影響を与えるか

待つことが「価値」に与える影響を分析する

今ゲームをするか、それとも明日のテストでよい点を取るために、遊びたい気持ちをがまんして勉強をがんばるか、どちらを選ぶと尋ねられると、たいていの高校生はゲームを選ぶかもしれません。お小遣いの1万円を今すぐもらえるのがいいか、それとも1週間後にもらえるほうがいいかと尋ねられたら、100人中100人が「今すぐ」と答えるはずです。では、今すぐなら9500円、1週間待てば1万円もらえる場合では、どうでしょうか。今度は少し待ってでも額の多い1万円をもらえるほうを選ぶ人も出てくるのではないでしょうか。今すぐもらえる額が5000円ぐらいに減ると、今度は逆に、ほとんどの人が1週間待つに違いありません。

1年後の1万円と1年と1週間後の1万1000円

今なら1万円、1週間待てば1万1000円もらえる場合、どちらを選ぶかは人により判断が分かれるでしょう。ところが1年後の1万円と、1年1週間後の1万1000円なら、今度は、どうせ長く待つのだから1週間ぐらい余計に待っても1万1000円もらうほうを選ぶ人が大多数になるはずです。このように待ち時間が長くなっていくと、どこかの時点で、人がものを選ぶ基準が変わることを「選好逆転現象」と呼びます。選好逆転現象は、人間が基本的に備えている心理学的性向の一つです。

目の前のごほうびと、先のごほうび

目の前の小さな報酬に飛びついてしまう性質を「衝動性」と呼びます。待てば、その後によりよい成果を得られるのにもかかわらず、待てないのは衝動性の現れです。これに対して、衝動性を抑えて、より大きな報酬を得られるように待つことを「自己制御」と呼びます。自己制御は子どもから大人にかけて発達する能力です。子どもでも少しがまんして待ち、後でよいことが起こることを身をもって経験すれば、自己制御できるようになります。この自己制御を習得するメカニズムは、発達障がいの子どもの治療にも生かされています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 文学部 人間行動学科 准教授 佐伯 大輔 先生

大阪公立大学 文学部 人間行動学科 准教授 佐伯 大輔 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

心理学、行動分析学、動物心理学

メッセージ

大学での学びは、高校までの学習と大きく異なります。最大の違いは、大学では、新しい知識を自分で生み出せる可能性があることで、これは、かなりわくわくする作業です。また高校では文系理系に分かれていますが、大学に入ると文理の垣根がなくなります。文系の心理学でも実験が必要な場合があり、実験技術や統計学の知識が求められるのです。必要があれば、こうした理系の知識も自然と身につきます。実験を通じて心理を考える学問分野は非常に面白いので、興味があれば、あなたも一緒に学びましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。