ケセン語研究で見えてきた郷土の言葉への誇り

無意識に使う言葉の中にある面白さ
人間の特徴の一つは、言葉を使って他者とコミュニケーションを取ることです。世界中にはさまざまな言語があります。私たちは日々、無意識に言葉を使っているので、その面白さに気づくことは少ないかもしれません。しかし、例えば英語と日本語を比べて分析していくと、さまざまなことが見えてきますし、特定の地域内で使われる言葉の中にも、面白いものがたくさんあります。
方言というより、独立した言語
岩手県の大船渡市や陸前高田市などの地域で使われる言葉は、「ケセン語」と呼ばれています。
ケセン語にある独特の表現の一つが、自発の意味を表す助動詞の「サル」です。「このペンよぐ書ガサル(このペンはよく書ける)」、「このペン書ガサラネ(自分はきちんと使っているのだけれどもインクが出なくて書けない、これまで書けていたのに書けなくなった)」のように使い、自動詞にも他動詞にも比較的自由に結合できることが特徴です。東京の言葉や英語などにはない表現であるため、ケセン語は「変わった言語」だと思われがちでした。しかし、世界の言語と詳しく比較分析していくと、韓国語やギリシャ語などにも「サル」に似た表現があることがわかってきました。
方言を次の世代に残していく
東日本大震災の後、気仙地方の人たちは自分たちの言葉や文化の素晴らしさに気づき、ケセン語でさまざまなことを発信しました。そして、この地で生きる希望や誇りを持ちました。
言語学者たちは今、各地の方言を残していこうとしています。その一つの試みが、AIによる方言生成です。ケセン語を使う人たちに協力を募り、音声データを収集して、ケセン語の生成AIを作る研究が進んでいます。言葉を知ることは文化を知ること、言葉を残すことは誇りを残すことです。言語を知ると郷土が見えてくるのです。
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先生情報 / 大学情報

盛岡大学文学部 英語文化学科 教授新沼 史和 先生
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