時代によって変わりゆく本のあり方
実は読者が少なかった紫式部
『源氏物語』の作者である紫式部や、「春はあけぼの……」でおなじみの『枕草子』を執筆した清少納言は、今の時代でいえば、偉大な小説家やエッセイストです。しかし、実は当時はまだ、マスメディアとしての出版システムというものは存在しませんでした。彼女たちは、それぞれが仕えていた彰子や定子のサロン内で、数名の読者に向けて文芸作品を創作していたのです。
出版社を通して、作家の作品が多くの読者に届けられるという「出版」が、本格的にビジネスとして成立したのは江戸時代。つまり、作家が書きたいものを書くのではなく、売れるものを出版社が作家に書かせるという形態が出来上がったのがこの頃なのです。蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)が手がけた写楽の浮世絵などが代表的です。中には、商業ベースの体制に反発する作家もいたようですが、大量出版は普及していきました。
将来、本はなくなるのか?
ところが今、出版社では廃刊が相次ぎ、本が売れない時代になっています。あなたが住んでいる町でも本屋がどんどんつぶれているのではないでしょうか。ご存じの通り、アマゾンなどのインターネット書店が台頭してきたことが影響しています。さらに、インターネットの発展は、すべての人が情報の発信者になることを可能にしました。出版社を介さなくても、読者が作者とダイレクトにつながることができる社会になってしまったのです。
本そのものの価値も問われています。1990年からの20年間で、文庫や新書は内容がノウハウ的で手軽なものになりましたし、自費出版の流行もあって活字の信用性が著しく低下しているからです。本のメリットは、作品を残したり、作者の思考過程を残したりといった「保存性」と、誰もが手にとれる「アクセスのしやすさ」にあります。ですから、本は一定の需要に沿って生き残ることが予想されますが、今後はやはり、オンデマンド出版など、インターネット中心の出版形態が主流になるでしょう。
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