毎日していることが、芸術作品の鑑賞でも大事なポイント

本当に絵を見ている?
美術館で作品を見るとき、すぐにキャプションを読みはじめてしまい、作品はチラ見するだけ……なんてことはありませんか? キャプションはたしかに作品の時代背景や作者やテーマについて教えてくれます。けれども、それは本当に作品を見ているのでしょうか?
例えば西洋画に多く描かれた受胎告知は聖書の物語をあらわしています。けれども画家たちは、物語上の制約の中でも形や色、人物や物の配置を巧みに組織することで、独特の画面をつくりだしています。
物語やテーマといった「深み」を学ぶことも大切ですが、まずは目の前にひろがる造形要素である「浅み」に注目してみましょう。
作品が生まれる過程
実際、物語やテーマばかりに注目していては作品が見えなくなってしまうこともあります。
例えば宮﨑駿は、『崖の上のポニョ』の制作時、イメージボードを何枚も描く中で突然意図しない絵を描いてしまいます。そのことに驚きつつも彼は、「これが映画の最初の一枚なんです」と言いました。宮崎は物語やテーマといった自らの構想を打ち破り、変形してしまうような絵が現れるのを待っていたのです。
『君たちはどう生きるか』の公開当初、SNSでは「意味がわからない」という声が多く見られました。たしかにあの作品は、鮮烈な断片的シーンの連続で、物語やテーマから解釈するのは難しいものです。けれども、監督の関心は物語やテーマの手前の「浅み」にこそあります。この「浅み」に注目することで、これまでとはまったく違った作品像が見えてくるのです。
生活と地続きの芸術
人は作品を前にすると、どうしても物語やテーマが気になってしまいます。けれども私たちは、日々の生活の中で、髪形や服装、料理の味などを何気なく判断しています。そうした「浅み」の判断は作品制作のプロセスの中にも無数にあり、作品から見てとることができるのです。
まずは日々の生活と同じ感覚で作品を見てみましょう。そうすれば作品は、いつもと違った姿を見せてくれるはずです。
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先生情報 / 大学情報

京都教育大学教育学部 美術科 教授山内 朋樹 先生
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