新幹線のスピードアップと環境を両立させる騒音対策
空気の流れの変動が騒音となる
日本の新幹線は、そのスピードや安全性、信頼性だけでなく、環境への対策でも世界一と言えます。環境対策の最大のテーマは騒音です。高速で走る乗り物から発生する騒音は、乗り物の周りの空気の流れの変動が振動となって起こるものです。速度が速いと空気の変動も大きくなり、大きな音が出ます。例えば、飛行機は速度が速いため周りの空気の流れの変動が大きくなり、飛行機の騒音問題はなかなか解決しないのです。こうした空気の流れと音の関係を「流体音響学」と言います。新幹線の騒音対策も、その理論に基づくものです。
新幹線の騒音の約80%は空気が流れる音
新幹線の騒音でもっとも大きなものは、トンネルに突入したときの「微気圧波」と呼ばれる低周波の衝撃音ですが、ここでは新幹線がトンネル以外の「あかり区間」を走行しているときに出す騒音について見ていきます。これは大きく4つに分類できます。1つ目は、車輪などから出てくる機械音。2つ目は、パンタグラフ(集電装置)のスパーク音などの電気的な音。3つ目がパンタグラフのすり板から出るシューッという音。そして4つ目が、ザーッという空気音・空力音で、速度の3乗以上で比例して大きくなります。新幹線の騒音の約80%は空気が流れる音であり、これをいかに制御するかが重要なのです。
騒音対策のいちばんはパンタグラフ
空気音・空力音で、もっとも大きなものはパンタグラフの周りに発生する音です。そのために、部材に穴を設けたり、パンタグラフの横に防音板をつけるなど、さまざまな工夫がなされています。ポイントは、空気の流れの渦(変動)を作らないようにすることです。また渦を小さくし、渦の波形が揃わないようにすることも効果的です。例えば300km/hで走行する新幹線N700系では、パンタグラフの前に三角形のはね上げ板をつけて、パンタグラフに当たる空気の速度を落としています。
新幹線にはスピードだけでなく、環境にやさしい快適な乗り物にするための地道な努力が続けられているのです。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 工学部 エネルギー科学科 教授 青木 俊之 先生
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