政治から携帯電話まで、多くの社会現象を説明できるナッシュ均衡
海の家の立地が集中するのは
海水浴場の海の家を思い出してください。海の家が一定間隔をあけて建っていれば、お客さんはどこにいても同じくらいの距離に必ず1件は海の家があることになって便利なのですが、実際は隣接して建っています。なぜでしょうか。店舗には商圏(店舗が集客できる範囲)というものがあります。ある店は商圏を広げたいので海水浴場の中央に寄っていきます。すると、ライバル店舗も同じように中央に寄っていきます。そして、隣接した位置で安定するのです。これを「ナッシュ均衡」と言います。
ナッシュ均衡はジョン・ナッシュというノーベル賞を受賞した数学者が生み出した概念で、理論経済学の分野で発展しましたが、都市空間の活動を説明することにも使われています。
ルクセンブルクの税率が低いのは
ドイツとフランス、そしてベルギーに囲まれた場所にルクセンブルクという小さな国があります。ここは周辺諸国よりも、特にガソリンやタバコ、酒の税率が低いので、周辺国の人々は国境を越えてこれらのものを買いにルクセンブルクに来ます。ならば周辺国も税率を下げればいいのにと考えたくなりますが、周辺国でもルクセンブルクから遠い地域の人々はわざわざ買いに行きません。一部の人々のために税率を下げると、国全体で税収が下がってしまうので、周辺国は税率を下げられないのです。この政策のおかげで、ルクセンブルクの国民一人当たりの所得は世界一です。この現象もナッシュ均衡で説明できます。
さまざまな現象を説明できる
ナッシュ均衡の概念を使うと、これ以外にもさまざまな社会現象を説明できます。なぜA社という自動車会社とライバル社B社の自動車のデザインが似てくるのか、またスライド式携帯電話が出てくると、なぜどの携帯電話会社もスライド式の携帯電話を発売するのか、また、対立しているはずの政党が打ち出す政策が大差ないものになっていくという現象も、ナッシュ均衡で説明できるのです。
ここで紹介したような、種類の異なる現象の奥に、それらすべてに共通する理論があるのです。
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筑波大学 システム情報系 教授 大澤 義明 先生
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