遺伝子解析で新たなページが開かれた、古くて新しい植物分類学の世界
分類学の基礎=自然界から概念の世界への翻訳
「セイヨウタンポポ」と言えば、だれでも頭に同じ花を思い浮かべます。それは、ある特定の植物の特徴が客観的に記述され、「この特徴を持つ植物はセイヨウタンポポである」と、決められているからこそできることです。地球上にどのような生き物がいるかを正確につかんで、名前をつけ、それを世の中に知らせることが「分類学」の最も基本的な作業であり、使命です。いわば、自然界に実在する「自然群」を人間の概念の世界に「分類群」として翻訳するようなものです。「分類群」の姿を鮮明にするためには特徴すなわち「形質」を発見し、その一つひとつを正確にとらえることが必要です。葉や花の形、多年草かどうかや、茎の様子など、細かく観察していくときりがないほどです。
分子系統解析により進化を調べる
「自然群」を調べることにより個々の「分類群」をはっきりさせるとともに、それらがどのように進化してきたかを調べることが分類学の課題です。最近になって、遺伝子の本体であるDNAやRNAの塩基配列を比較解析する技術が進歩し、植物の系統関係がより正確にわかるようになってきました。そこで、これまでにわかっていたさまざまな特徴を系統関係と対比して考えることで、多様な植物がどのようにして特徴を獲得し、進化してきたかを具体的に明らかにすることが可能になりました。また、進化を反映した新しいグループ分けができるようになりました。
まだまだ終わらない分類学
分類学は古い学問で、200年以上の歴史があります。しかし、地球上には花が咲く植物だけで30万種類以上あると言われており、そのすべてに名前がついているわけではありませんし、名前がついている植物でも形質がすべて明らかになっているとは限りません。遺伝子情報の解析もまだ始まったばかりです。形質の情報を固めていく仕事にはまだまだ終わりがないのです。
分類学は、古いようでありながら、現在まさに進行中の学問なのです。
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