植物の多様性保全に欠かせない植物園の役割
小笠原諸島の植生
2011年、世界自然遺産に登録された小笠原諸島は、噴火によって海底から出現した、大陸から遠く離れた島々(大洋島)です。ですから誕生当初は陸に住む動植物が生息していませんでした。
遠くから飛んできたり、運ばれたりしてきた種子がそこで芽生えて成長し、生きのびるためには厳しい環境に耐えることが必要ですが、一方では、競争相手となる植物が少ないので、いろいろな形に進化できます。しかも短い期間で新種が生まれる可能性があります。普通は草なのに、木に進化した植物もありました。その結果、140種におよぶ小笠原諸島固有の植物が出現し、世界的にも貴重な自然だと認められたのです。
ムニンツツジの復活に向けて
しかし、固有種の多くは、さまざまな理由によってその数が減り、絶滅危惧種になっています。「ムニンツツジ」や「ムニンノボタン」という植物もその例です。「ムニンツツジ」は、盗掘などによって小笠原諸島で1株だけに減っていました。そこで、東京の小石川植物園で種子を蒔いて増やし、現地に戻す活動が行われ、現在も続いています。植え戻した株と残っている1株とで、再び増えていくことが期待されています。
植物園の役割とは
植物園では珍しい植物を展示公開するほか、遺伝子資源となる植物を栽培したり、研究のために植物を育て、生態を観察するといった、さまざまな活動をしています。また、世界の大きな植物園は小石川植物園と同様に、標本や研究資料を保存し、生きた植物と合わせて活用して、分類学の研究センターとして活動しています。
近年重要性が増しているのは、地球上の生物多様性を維持するために、絶滅危惧種などの珍しい植物を保全する役割です。これはもともとその植物が生えている場所ではない場所で保全するので「域外保全」と言います。小石川植物園ではほかの絶滅危惧種とともに、80種類ほどの小笠原諸島の固有植物が温室で栽培され、保全されています。
貴重な植物を保全するため、植物園の役割はますます大きくなっていくことでしょう。
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