多民族が複雑に絡み合う中央ヨーロッパの文化の面白さとは?

多民族が複雑に絡み合う中央ヨーロッパの文化の面白さとは?

オーストリアってどんな国?

オーストリアはヨーロッパのほぼ真ん中に位置し、周囲をドイツやチェコ、ハンガリー、スイス、イタリアなどに囲まれています。公用語はドイツ語ですが、チェコやハンガリーなど周辺国からの移民も多い多民族国家です。オーストリアは歴史的に見るとハプスブルク家が統治する帝国として、音楽をはじめとした豊かな文化を育んできましたが、文学に関してはドイツ語圏の周辺地域を含めて複雑な様相を呈しています。

ドイツ語で書かれていてもドイツ文学じゃない?

20世紀ドイツ語圏の代表的な作家にフランツ・カフカが挙げられます。カフカは、当時オーストリア=ハンガリー帝国領だったプラハ(現在チェコの首都)に生まれたユダヤ人です。父はチェコ語を母語としながらも、ドイツ語を話していました。『失踪者』という小説では、カフカ自身と境遇の重なる主人公がアメリカに行きます。彼にとって故郷とは何かをテクストを通じて考えることで、カフカのもつ複雑なアイデンティティの問題に触れることができます。
カフカと同時代に活躍したムージルという作家もオーストリアでチェコ系の家系に生まれ、ベルリンの大学で学び、ウィーンを舞台にした小説『特性のない男』の中でハプスブルク帝国の崩壊を表現しています。
ヨーロッパは多民族・多言語で成り立っているので、このような複雑な成り立ちの文学が生まれるのです。

「ゴーレム」伝説に見る共通の背景

複雑なヨーロッパ文学の中にも共通して登場する現象があります。「ゴーレム」伝説はその1つです。ゴーレムはユダヤ教の伝承で、神が土塊からつくった動く人形です。ゴーレムの語源となる言葉が旧約聖書に一度だけ出てきます。
チェコの作家カレル・チャペックが書いた『ロボット』の原型だとも言われていますし、カフカの作品にも影響を与えたとも言われています。映画にもなっており、ゲームのキャラクターでも登場します。しかしその背景は聖書というヨーロッパの人々の心のよりどころにあり、昔と現代をつなぐ興味深いものなのです。

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武蔵大学 人文学部 ヨーロッパ文化学科 教授 桂 元嗣 先生

武蔵大学 人文学部 ヨーロッパ文化学科 教授 桂 元嗣 先生

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ドイツ文学

メッセージ

オーストリアという国にどんなイメージがありますか? 中央ヨーロッパにあり、首都は音楽の都としても名高いウィーン、公用語はドイツ語です。世界史の授業でよく聞いたハプスブルク家が治めていた国であり、マリー・アントワネットの出身地でもあります。カフェ文化も盛んな国です。世界史の用語集にも出てくるので、それぞれのキーワードに対するイメージはあるでしょうが、それらのイメージを背景にある歴史や文化と結びつけ、点ではなく線で考えていくのが大学の学びの面白さです。

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