移動する森林を観測して、自然環境を考える地理学
森林が山を登っていく現象とは?
「森林」とは、10~20mほどの立木がある程度まとまって生えている状態を指します。長期間にわたって森林を観測すると、気候変化が自然環境にどのような変化を及ぼすのかの手がかりを得ることができます。北海道にある利尻島の森林をターゲットに、40年前に撮影された空中写真と現在のドローンによる撮影画像を比較したところ、40年間で40mも森林の境界が上に移動していることがわかりました。例えるなら、森林が動いて、山を登っていくような様相です。
森林が上昇すると高山植物の居場所は?
森林が形成される上限を「森林限界」といい、生えている植物の集団「植生」で見分けることができます。利尻島全体の植生は亜寒帯針葉樹林ですが、標高が高くなるとダケカンバという落葉広葉樹林に変わり、そこから上は高さ1~2mのハイマツやササが生えている高山帯です。つまりダケカンバが森林限界の目印です。
森林限界が上昇すると、その上の高山帯が狭くなります。高山帯には多様な高山植物が自生しているので、狭くなるとそれらが消滅することが考えられます。海外の国では高山帯でよく放牧をしますが、日本は放牧をあまりしないので、人や家畜が入り込むことによる影響が少なく、高山植物の種類が豊富だといわれています。その貴重な植物を保全することは大切なことです。
未来を予測して、環境を守る地理学
なぜ森林が上昇するかは、気候変化が要因の一つと考えられていますが、そのほかの要因は詳しくわかっていません。自然環境はもともと何千年、何万年という単位でゆっくりと変化するので、このような急激な変化が起きると、変化に追いつけずに滅びてしまう植物や生物が出てくることは大きな問題です。しかし、森林などの自然を観測して、未来が予測できれば、絶滅しそうな種を保護するなどの対策が立てられます。このような植生地理学の研究が地球の環境を守る社会貢献につながっています。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 地理環境学科 教授 吉田 圭一郎 先生
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