講義No.08564 日本文学

書の中に日本の歴史と文化を見出す「書道研究」

書の中に日本の歴史と文化を見出す「書道研究」

空海が自覚した「日本人」という概念

平安時代に真言宗を興した僧侶、空海(弘法大師)は、能書家として優れた作品を残し、嵯峨天皇や橘逸勢とともに「平安の三筆」の1人とされています。空海は804年、31歳の時に唐に渡り、2年間の修行の日々を過ごしました。この時期が、空海の書のスタイルに最も影響を及ぼしたと考えられていますが、書を比較してみると、唐に渡る前の方が、唐の能書家である欧陽詢など、当時の最先端の中国書法の影響を強く受けていたことがわかります。例えば、帰国後に空海が最澄に宛てて書いた手紙である「風信帖」の方が、むしろ柔らかくて日本的なのです。異国の文化に濃密に接した経験が、かえって空海の中に「日本人」という概念や日本文化への意識を呼び起こしたのではと考えられます。

独自のスタイルを求めて生まれた文化

平安時代における国風文化の台頭は、遣唐使派遣の停止が影響したと考えられがちですが、遣唐使がない時期にも、民間レベルでは中国からは多数の物品や情報が入ってきていました。人々は中国からの情報に接する中で、中国と同じものを作るだけでなく、日本人として独自のスタイルも出したいと思うようになり、それが国風文化へとつながっていったと考えられます。
その頃には、漢字の書き方も、中国風のかっちり、きりっとしたものから、より細く、柔らかく、繊細なタッチの和様漢字に変わっていきました。漢字を書き崩した「かな」が広く使われるようになったのもこの時期です。「漢字とかな」「漢詩と和歌」のように、先進の憧れの対象である中国的な文化と、日本的な文化とが共存するようになっていきました。

文字を文化として扱うことの重要さ

書道の研究は、歴史、考古学、文化史、美術史など、さまざまな研究と連携することで、より深く、総合的に解明していくことができます。文字から文化的背景を取り払ってしまったら、ただの記号の羅列にすぎません。書道の研究には、文字を文化として扱い、その文化を後世に伝えていくという、大切な役割が求められているのです。

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帝京大学 文学部 日本文化学科 准教授 福井 淳哉 先生

帝京大学 文学部 日本文化学科 准教授 福井 淳哉 先生

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日本文化学

メッセージ

「大学で書道を学ぶ」と聞いて、どんなことをイメージしますか? 文字には、文字以上のたくさんの情報が詰まっています。手書きの文字には、日頃使っているスマホやパソコンに表示される文字とは違う、書いた人の「顔」が表れています。
大学で書道を学ぶということは、その文字の裏にある情報を読み解くということにほかなりません。ぜひ、大学でしかできない書道文化へのアプローチと学びを一緒に深めていきましょう。

先生への質問

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医療系・文系・理系と幅広い分野の10学部32学科を擁する総合大学です。文系学部を中心とした八王子キャンパスでは、約15,000人の学生が学んでいます。東京多摩丘陵の自然豊かな景観に位置し、キャンパスリニューアルにより新校舎棟「SORATIO SQUARE(ソラティオスクエア)」「帝京大学総合博物館」をはじめとした、施設・設備が整備され、教育指針である「実学」「国際性」「開放性」を柱に、自ら未来を切り拓く人材を育成しています。