合掌造り集落から考える、住民主体のまちづくりとは
生活空間が観光地に
自分が生活する家を自由に建て替えることができなかったり、そこに観光客が押し寄せたりする環境をどう思いますか?
文化財や文化的景観がある地域には、それらの歴史的・文化的な価値を守る目的でさまざまな制限を強いるルールがあります。岐阜県・白川郷の、合掌造り集落もそうです。合掌造りの建物は、雪深い地域で、蚕(かいこ)を飼って絹糸を生産しながら生活した住宅であり、今も独特で魅力ある風景が広がります。このような文化的景観を守るため、住民は伝統的な住宅と現代的な暮らしとの折り合いをつけながら生活しています。
住民主体のボトムアップ型まちづくり
最盛期には周辺エリアも含め1800棟ほどあった合掌造りの建物ですが、昭和中期に盛んに建設されたダムによって集落ごと水没したり、自宅を現代風に建て替えたりして激減しました。合掌造りの減少と村の衰退に危機感を覚えた住民は、これからどのように生活していくかを必死に考えました。そこで、白川郷では、合掌造りの建物を保存し、民宿にして観光客を迎え入れることにしたのです。つまり、合掌造りが今に残る白川郷は、近代化の荒波を乗り越えた数少ない集落の一つなのです。
それ以来、50年にわたり保存活動がおこなわれ、合掌造りは村の誇りとなりました。1995年に世界遺産に登録され、想定を超える数の観光客が訪れるようになったり、交通渋滞が発生するようになった時にも、話し合いを重ねて解決しています。行政が地域の将来あるべき姿を決め、それに住民が従うのではなく、住民が主体性を持った「ボトムアップ型」のまちづくりを実現しているのです。
一番大事なのは住民の納得と幸福感
今でも白川郷では、変化する景観をどのように守るか、交通の仕組みをどのように改善していくかなどの話し合いが続いています。また今後は、観光客から得られる収益が地域に広く還元される仕組みを考える必要があるでしょう。まちづくりでもっとも重要なのは、そこに住む住民が納得し、幸福感を得られることなのです。
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先生情報 / 大学情報
同志社女子大学 生活科学部 人間生活学科 准教授 麻生 美希 先生
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