疾患の効率的な診断と治療を可能にする「放射性医薬品」
疾患の情報を体外から取得
いまや日本人の2人に1人ががんになる時代です。しかし早期発見・早期治療を行えば治癒が期待できます。がんや動脈硬化など体の外から見えない疾患の場所や状態は、PETやSPECTで調べることができます。この検査は、放射性医薬品という薬剤を使って行われます。放射性医薬品は、医薬品に、放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を結合させた薬剤です。放射性同位元素は体内を透過するガンマ線という放射線を放出します。注射などで体内に注入し、分布したガンマ線を検出することで、疾患の部位や悪性度などの情報を体外から取得し、診断します。
グルコース代謝を利用したPET検査薬
がん細胞は通常の細胞に比べエネルギー代謝が活発で、グルコース(糖)を取り込みやすいという特徴があります。その特徴を利用したのがFDG(Gはグルコースの意)という放射性医薬品です。体内に入るとFDGはグルコースと同じようにがん細胞に高く取り込まれ、そこから出る放射線を体の外からPETで撮影し画像にすることで、がんの位置や大きさなどを調べることができます。ただし、もともとグルコース代謝が活発な脳や心臓、排泄経路の腎臓など、がんの発見や判定が難しい部位があります。
診断と治療の一体化をめざして
放射性医薬品は、国内では疾患の発見が主な用途ですが、すでに欧米では治療薬としての研究も行われています。アルファ線やベータ線という放射線を使って特定の細胞を破壊する放射性医薬品が開発されてきています。前立腺がん患者の治療薬として臨床試験が行われ、有効性も実証されています。世界的に安全性も確立され、今後さらに治療薬としての期待が高まる放射性医薬品ですが、日本では未承認のため使用することはできません。臨床の現場で使用を期待する声も多く、疾患を早期にとらえることはもちろん、的確な治療もできる、これまで可視化されていなかった体内の分子の動きを見えるようにする新しい分子イメージングの薬剤開発と、その承認が望まれます。
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先生情報 / 大学情報
大阪医科薬科大学 薬学部 薬学科 教授 天滿 敬 先生
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