世界で協力するための配慮とは? ヨーロッパ統合史に見る国際関係

世界で協力するための配慮とは? ヨーロッパ統合史に見る国際関係

ヨーロッパ統合の過程を探る

EU(欧州連合)などヨーロッパ統合に関する歴史を分析すると、世界で協力するために必要な要素や、問題に対する整合の取り方などが見えてきます。また、EUについて考えるときはヨーロッパ内だけでなく、アメリカや日本など世界中の国との関係にも着目する必要があります。EUはその外部との交渉をくり返しながら形作られていったからです。
例えば1980年代にできたシェンゲン協定は、加盟国間の国境検査を撤廃するものでした。一方で加盟国外からの入国審査を厳しくし、観光目的でもビザ(入国審査をクリアした人に発行される証書)を求めるなどの措置をとろうとしました。日本など一部の国についてはビザなしでの入国を認めていますが、ヨーロッパ統合がヨーロッパ内だけではなく、世界の国々に影響を与えるものだということがわかるでしょう。

関税に関する議論

ヨーロッパ統合が開始された当初から、それは常にヨーロッパだけの関心ではありませんでした。1950~60年代、EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)では、関税の撤廃について議論されました。関税の変化が経済に及ぼす影響は、実はそれほど大きくありません。しかし関税はEEC加盟国とほかの地域を分断する象徴のひとつだったため、国際的な議論となりました。一部の国だけが関税を優遇されるという事実が、実経済よりも心理面に大きな影響を与えたためです。

急がば回れ

結局EECは加盟国間だけではなく、アメリカや日本を含むその他の非加盟国にも関税を下げるという道を歩みました。いわば、EECは加盟国間の統合に加えて、世界中の国同士の広く・浅い統合を促したのです。一方、その背景ではヨーロッパの国に対してのみ関税の引き下げを行うという計画が頓挫していました。今日のEUの発展は、ヨーロッパ諸国間の団結だけではなく、世界への働きかけを通じて、実現したものと言えるのです。

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帝京大学 文学部 史学科 講師 能勢 和宏 先生

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歴史学

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メッセージ

あなたにも、ヨーロッパに関するテーマに興味を持ってもらえるとうれしいです。ニュースでは中国やアメリカなどの話題が多く、世間からの注目の高さがうかがえます。しかしヨーロッパから学べることも、まだまだたくさんあるはずです。
ヨーロッパは、今後日本が直面するであろう問題をすでに経験している地域です。試行錯誤をくり返して課題を乗り越えてきた歴史は、きっと日本の将来を考えるうえでも役立つと思います。物事に対する想像力を鍛える視点のひとつとして、ぜひヨーロッパ統合史も勉強してください。

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