救済を求める心が生みだした、『鬼滅の刃』ブーム

救済を求める心が生みだした、『鬼滅の刃』ブーム

『鬼滅の刃』は画期的だった

ヒットしたアニメやコミックには、人と社会が求めているものが反映されています。『鬼滅の刃』は、当初において「救済の構図」が前面に出ていたことが特徴でした。敵さえも救おうとする『鬼滅の刃』は画期的でした。現代では自分の力で立ち上がろうとすることを重視する傾向が強く、「救済される」のではなく、「立ち上がる」ことが重視されます。その一方で、自分で自分を救う(自分の力で立ち上がる)ことが得意ではない人たちが存在しています。さらに、その「救済の構図」は、炭治郎の「徹底した憎悪」によって裏打ちされています。炭治郎は「救済―憎悪」という対立関係の具現者であり、それが『鬼滅の刃』の訴求力につながったと考えられます。

敵の描写がヒットを生む

また21世紀以降のヒット作の多くが持っていた要素として、閉塞感と絶望があります。『鬼滅の刃』の前にヒットした『進撃の巨人』は、敵である「巨人」による絶望的な脅威にさらされ、「巨大な壁」の中に閉塞されている人々が「絶望にどう向き合うか」ということを丁寧に描いた作品でした。また『僕のヒーローアカデミア』のように、敵が悪者になった理由を詳しく描いたエピソードが人気を博す作品もあります。本当はヒーローになりたかったのに、悪者になってしまったというストーリーは、多くの視聴者に対して高い訴求力があったと言えるでしょう。

二極分化がもたらすもの

『進撃の巨人』の訴求構造分析によると、そこには、夢と理想を抱き未来に突き進む人と、現実を諦めてしまう人の二極分化が見えます。二極分化自体は古くからありましたが、現代における問題はその比率が偏り、圧倒的に諦めてしまう人が多くなっているように見えることにとても大きな問題を感じています。この社会は、若年者が諦めずに夢を求めることができる状況を作り上げなければなりません。2000年代半ばから「異世界」に転生や転移をする作品が数多く生まれ、一定の人気を得ていることも、とても重要なことなのです。

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フェリス女学院大学 文学部 コミュニケーション学科 教授 高田 明典 先生

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メッセージ

大学での学問そのものが将来の職業に直接的に結びつく可能性は、さほど高くありません。しかし何か問題を発見し、必要な資料を集め、自分なりの解決法を探る経験は、どんな職業においても役立ちます。
高校生のうちから身につけてほしいのは、「問題を発見する力」です。現実の出来事を自分の問題としてとらえることは案外難しく、人から教わって学べるものでもありません。世の中のさまざまなことに興味を持ち、当事者意識を持つ訓練をしておきましょう。

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