ロシア文学と修道院の関係から見える、新しい文学の世界
日本でも人気が高いロシア文学
トルストイやドストエフスキー、ゴーゴリといった作家たちは、ロシア文学史に欠かせない人物です。難しそうなイメージをもつ人も多いのですが、実はロシア文学が好きな日本人はたくさんいます。2008年に新しく翻訳された、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は100万部を超える大ヒットとなっています。
ロシア文学には、欧米文学のようなストーリー展開のおもしろさや華やかさはありません。しかし、さまざまな出来事のなかで起きる人間の心理の微細な動きを見事に描写していることが、魅力のひとつといえます。
修道院があるから創作活動ができた
ロシア文学の土台には、誰もが罪深きものであり、未完成であるという人間の存在があり、悔い改めて許され、救われたいという思いがあります。彼らの作品には、正教会の修道士や修道院が頻繁に登場します。作家たちにとっても、修道院は不可欠な存在でした。モスクワの南260キロの場所にある「オプチナ修道院」には、神と交信できるとされる長老がおり、訪れた人に寄り添い、祈りを捧げてくれます。悩みや苦しみを長老に打ち明け、許しと救いを求めることができたからこそ、作品が生まれたことも少なくありません。
例えばドストエフスキーは、最愛の息子を亡くして創作意欲を失っていたときに、オプチナ修道院を訪れて長老に会いました。再びペンを取り、息子の名を登場させて描いたのが、「カラマーゾフの兄弟」だといわれています。
修道院の存在から見える文学の新しい世界
トルストイは正教会の教えに抗い、破門されていました。それでも長老の元に6回も訪れ、死の直前も長老に会おうとしたといいます。自分には何が足りないのか、犯した罪は何かを模索して、悩んでいた姿が垣間見えます。
修道院とロシア文学の関係を読み解くと、歴史上に残る文豪も、今の私たちと同じように悩み苦しんでいたことがわかります。それによって、これまでの文学研究とはまったく異なる、新しい文学の世界が見えてくるのです。
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神戸市外国語大学 外国語学部 ロシア学科 教授 清水 俊行 先生
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