生態系の価値を「見える化」して地域活性化
生態系サービスの価値を経済学のアプローチで評価
生態系サービスとは、人類が生態系から受け取っている恵みのことです。気候の調整、水循環、土壌形成、食料生産、そしてレクレーションなど、その恵みはどれも重要で欠かせないものです。しかし、生態系は、どこかで買うことができるモノではないため、重要性には気が付くものの、どの程度重要なのかについては理解することが難しく、そのことが生態系を保全しようとするインセンティブにつながらない一因と考えられます。そこで、多くの人々が理解しやすい「金額」によって生態系サービスの価値を「見える化」する研究があります。
アザラシが定住しているメリットとデメリット
北海道に定住するアザラシにはメリットとデメリットがあります。デメリットはサケ定置網での食害です。メリットはアザラシウオッチングなどでの観光利用です。しかしまだメリットはあるのです。ある研究で、アザラシの糞尿が昆布の生育に影響している可能性が指摘されています。これは、アザラシがそこに定住しているからこそ期待されるメリットです。
生態系サービスの「見える化」が地域を活性化
アザラシがその地域に定住しているメリットは、言い換えると、アザラシの生態系サービスです。このアザラシの生態系サービスを「見える化」した研究を紹介しましょう。全国の約1000人にWebアンケートを実施しました。「アザラシと地域が共生するための基金をつくる」仮定の話を設定し、その基金に対して何円まで支払う意思があるかを回答してもらいました。分析の結果、基金に支払ってもよいと考えている人の平均金額は、1世帯当たり年間2555円となりました。また、アザラシによる食害が発生していることを知っている人は、知らない人に比べて支払い意思額が高くなることもわかりました。このようなアザラシの生態系サービスの「見える化」は、アザラシがその地域にいることのメリットへの理解の深まりやその価値を生かした新たなビジネスを創るなど、地域活性化につながることが期待されます。
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東京農業大学 生物産業学部 自然資源経営学科 教授 笹木 潤 先生
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