世界の幸せにつながる、100年ぶりの税制改革
どの国に税金を納めるか
企業が利益に応じて納める法人税には、ビジネスの国際化にともない「二重課税」の問題が起きました。例えばメーカーが海外に工場を作って生産や販売活動をする場合、法人税をどの国に納めるべきかが議論されたのです。本社が置かれた国も、工場や子会社が置かれた国も、税収を増やして国民に還元したいと考えますが、二重に課税されると企業の海外進出や投資が阻害されてしまいます。そこで当事国間でそれぞれが課税する所得の範囲を取り決める租税条約が結ばれるようになりました。
約100年ぶりの国際税制改革
さらに近年、GAFAと呼ばれる巨大IT企業を中心に、法人税率がゼロか極めて低い「タックスヘイブン(租税回避地)」に子会社を置いて資金を移し、納税を避ける動きが広がりました。それに加えて、インターネット上の取引で莫大な利益をあげているのに、利用者が多い国に子会社がないため法人税が課税されないという問題もありました。そこでOECD(経済協力開発機構)による税制改革が進められ、2021年に約140カ国で、多国籍企業に最低15%の法人税を課すことが合意されました。OECDが示すガイドラインに基づいて参加国の税法が改正される流れで、2023年の実施に向けて各国が動いています。国際的な税制としては、1928年の国際連盟条約案以来、約100年ぶりの大改革なのです。
幸せな暮らしのための税金
国によってさまざまな形になっている現行の税法を改正し、世界中で同じ仕組みを適用するのは簡単ではありません。しかし税率が一律になることで、各国に追加の税収がもたらされるとともに、企業間の納税の不公平がなくなることが期待されます。そもそも税金は、ごみ収集や道路整備などの公共サービスや、医療費や生活保護などの社会福祉に使われることで、その国で暮らす人たちの幸せにつながるものです。そのためには、ビジネスのグローバル化に税制が追いつき、適正な税収を得ることが必要不可欠なのです。
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埼玉学園大学 経済経営学部 経済経営学科 教授 佐藤 正勝 先生
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