憧れの「強い存在」とは? 女子プロレスの歴史に潜む多様性

戦後の女性のイメージは?
終戦直後の日本の女性に対して、「お金や物資がなくて苦労した」「妻や母として家庭を支えることを求められた」といったイメージがあるかもしれません。しかし「周囲が憧れを抱くほどの強い存在」として生きた女性たちもいたことが、女子プロレスの歴史研究からわかってきました。
研究では女子プロレスに関する新聞や雑誌記事、大衆小説の分析のほか、選手や観客だった人への聞き取り調査も行われました。その結果、メディアが取り上げた女子プロレスの姿と、女性たちの観点には大きな違いがあります。
メディアと女性の印象の違い
メディアは女子プロレスラーを性的な観点から扱う傾向があり、「露出の多い衣装を着た若い女性がリングの上で暴れている」などの描写をしています。一方女性のなかには、選手を「勇気をくれるヒーロー」のようにとらえた人がいました。
女子プロレスは戦後間もない頃から始まり、テレビでの試合中継をきっかけに1955年頃に第一次ブームが起こります。この時代、太陽族と呼ばれる不良男子グループが若い女性に危害を加える事件が多発していました。そのためリング上で戦う選手を見た女性たちは、「自分の代わりに不良をやっつけてくれそう」「泣き寝入りをせず戦っていいのだ」と、憧れや勇気を抱いたのです。
一方で女子プロレスを「はしたない」「戦わされる選手がかわいそう」と思っていた女性もおり、意見にはかなり幅があったといえます。
歴史に潜む多様性
これまでの日本の女性の歴史研究では「芸能の世界に生きる女性はメディアから性的な目で見られていた」「日本の復興とともに女性は強くなっていった」といったように、ひとくくりにしてとらえられがちでした。しかし女子プロレスの受け止め方だけを見てもわかるように、実際にはさまざまな価値観の女性たちがいて、ときには意見が衝突することもありました。これまでは見落とされがちだった女性の多様性にも注目して、歴史を新たな観点から見直そうと研究が続いています。
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神戸女学院大学国際学部 グローバル・スタディーズ学科 准教授瀬戸 智子 先生
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