施設の建築は、「所有者視点」から「利用者視点」へ
建築の機能とカタチを科学する
住まいの施設や病院、学校、図書館など、私たちの生活に欠かせないさまざまな施設に対して、その利用行動に適した部屋の広さや配列など、施設の機能とカタチを科学的に考えていく「建築計画学」という学問があります。
現在、特に高齢者や障がい者が利用する施設の建築計画のあり方が問われています。通常、建築物の設計は、建物の所有者との協議に従い、所有者の希望に基づいて決めていくものですが、公共性のある施設では、運営側やそこで働く職員といった「所有者」ではなく、病院で言えば患者にあたる「利用者」の視点で施設の機能とカタチを考える必要があります。
隠れたニーズをあぶりだす
高齢者や障がい者が利用者となる福祉施設の場合、利用者のニーズが把握しにくいという問題があります。コミュニケーションのとりにくい利用者の場合は、実際の利用場面を見ながら、空間に対する隠れたニーズをあぶりだす作業が重要となります。例えば、利用者が施設のどの空間でどのように他者と交流しているかを分析し、利用者にとってよりコミュニケーションをとりやすい空間づくりを提案します。
「椅子座空間」と「床座空間」
福祉施設では、利用者の移動は車イスによって行われることが多く、イスに座って過ごす、いわゆる「椅子座空間」が施設の大部分を占めています。しかし、床に直接座ったり寝転んだりできる「床座(ユカザ)空間」をつくることで、利用者が多様な行為を生み出せるようになるという調査結果が報告されています。これまで福祉施設では、介護や作業の効率を上げるために椅子座空間が中心となっていましたが、床座空間がもっとあるべきではないかと考えられるようになってきています。
椅子座空間と床座空間は、段差などで区切ることが望ましいとされますが、これは安全面や衛生面に配慮するものであり、段差をなくす方向性にある「ユニバーサルデザイン」や「バリアフリー」の考え方に矛盾するところはありません。重要なのは、利用者に「寄り添う」設計なのです。
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先生情報 / 大学情報
筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科 教授 山脇 博紀 先生
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