民族と言語~現代詩人エドウィン・モーガンの作品から

民族と言語~現代詩人エドウィン・モーガンの作品から

スコットランドの言語とエドウィン・モーガン

スコットランドは、現在はイギリスの一部ですが、もともとは独立した王国でした。ここには固有の言語である「ゲール語」、英語と同じ根をもつ「スコッツ語」、そして「英語」という3つの言語があります。このうちどれで作品を書くにしても、スコットランド詩人たちはそれを3つの言語から選んだことを意識することになります。
スコットランドの現代詩人エドウィン・モーガン(1920年グラスゴー生まれ)は、スコットランドの文化の固有性を強く主張しています。彼の作品は民族と言語についての示唆に富んでいるのです。

地球人と水星人との「対話詩」

モーガンの作品に"The First Men on Mercury"(水星に降りた最初の人類)という「対話詩」があります。水星に初めて行った地球人が、水星人と英語で対話をするという作品です。水星人は英語を話しません。地球人は単純な英語で自分の素性を説明し、リーダーとの面会を求めます。しかし水星人は"Bawr, Bawr"と地球人には意味不明の言葉を発するだけです。地球人は水星人を見下したように、さらにやさしい英語で、自分たちが「平和裏に」来たことを強調します。
対話を続けていくうちに、水星人はいつの間にか英語を習得し、水星人と地球人の立場は徐々に逆転していきます。最後には、地球人は水星人から"Go back to your planet"(自分たちの星に帰れ!)と完璧な英語で命令されます。地球人はタジタジとなり、意味不明な言葉を発するのです。

支配者と被支配者の関係

この詩は、侵略者(=地球人)と被侵略者(=水星人)の関係、そこにおける言語の存在を浮き彫りにしています。この関係に「イギリスとその一部に組み込まれたスコットランド」、「スコットランドも含めた大英帝国と、彼らに征服されたアフリカ・アジアの国々」を、重ね合わせることもできるでしょう。モーガンのこの詩に込めた思いが読み取れるのです。

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東京大学 教養学部 地域文化研究学科 教授 中尾 まさみ 先生

東京大学 教養学部 地域文化研究学科 教授 中尾 まさみ 先生

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文学、歴史学、地域文化研究

メッセージ

「詩」というと、教室で習うもの、文学研究の対象となるものと思いがちですが、アイドルの歌の歌詞も「詩」であることに変わりはありません。詩のなかに、勉強するものとか、楽しむためのもの、などというランク付けはないので、ぜひ、いろいろな詩に接してもらいたいと思います。また、高校生のときは、大人が思いもよらない斬新な発想ができるものです。ですから、自信を持って、「自由に思考すること」を恐れないでほしいと思います。

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東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。