複雑で難解だが魅力的なイェイツの詩の世界
アイルランドの代表的詩人イェイツ
ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865~1939)は、アイルランドを代表する詩人・劇作家で、1923年にはノーベル文学賞を受賞しています。アイルランドの神話や英雄物語を題材に創作したこと、オカルトに没頭し、独自の神秘体系を生み出したこと、何度も求婚したが実らなかった女性革命家との恋、国民演劇運動や日本の能への関心など、その生涯と作品は実に多彩で興味深い要素に満ちています。
アングロ・アイリッシュとしての視線
アイルランドには紀元前2―3世紀に大陸から渡ってきたゲール人が住んでいましたが、12世紀頃から始まったイングランドの侵略が17世紀に急速に進み、植民地化されました。19世紀後半になると自治や独立を求める気運が高まりますが、イェイツはちょうどこの時代に生きた人です。支配者層であるイングランド系の子孫「アングロ・アイリッシュ」である彼は、ゲール語が話せませんでしたが、アイルランドの文化に価値を見出し、その魅力を世界に発信しました。言い換えれば、イェイツの文学はその立場の複雑さから生まれたものなのです。英語は植民者の言語ですが、多くのアイルランド人にとっては母語でもあります。複数の言語が共在する土地で書かれる英語の詩には、ある種の緊張感が生まれます。土地と言語との関係は、文学の重要なテーマなのです。
詩を研究するおもしろさ
イェイツの詩は難解な上、前述のようにいろいろな顔を持つ人ですから、詩の主題も多岐にわたります。イェイツが詩で何を意図しているか、読者である私たちにすべてはわかりません。一方、作者が必ずしも意図していなくても私たちに伝わるものもあります。詩は、作者自身が考えたことだけで成立しているのではなく、それを超える、もしかすると作者自身にもわからないものまで表現している可能性があります。その解釈の半分は読者にゆだねられているのです。それが詩のおもしろさで、イェイツの詩は難解ですが、だからこそ魅力的で、時空を超えて人を惹きつけるのです。
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