イェイツの詩とアイルランドの妖精
ヨーロッパの西端の国、アイルランド
アイルランドはヨーロッパで最も西に位置する島国で、紀元前からこの地に住むゲール人が独自の文化を展開していました。17世紀にイングランドが本格的な植民地化を始め、入植した「アングロ・アイリッシュ(イングランド系のアイルランド人)」は先住のゲール人を支配しましたが、19世紀後半からナショナリズムが高揚し、自治・独立の気運が高まりました。その時期に活躍した詩人・劇作家W. B. イェイツは、アングロ・アイリッシュでしたが、アイルランド固有の文化に魅せられ、その素晴らしさを世界に発信した文学者でした。その一例として、妖精を取り上げましょう。
ゲール語がちりばめられた詩
『The Hosting of the Sidhe』という初期の詩があります。The Hostingはこの場合「集い」という意味ですが、最後のSidheという単語は、発音しようと思っても難しく感じるでしょう。これはゲール語で「妖精」という意味の言葉です。この詩は英語の詩ですが、随所にゲール語の人名や地名がちりばめられており、これによって内容だけでなく音からも異質な文化を感じさせる効果があります。人間を自分たちの世界へと誘う妖精の言葉の力は、聴覚を通しても読者に伝えられるのです。
怖いけれど魅力的な「妖精」
この詩は、世俗の生活を忘れさせる妖精の魔力をうたったものです。アイルランドにおいて妖精は親しまれてもいますが、また危険な存在でもあります。人里離れた場所に住んでいて、超自然的な能力を持っている妖精は、怒らせてはいけませんが、怒らせなければ共存もでき、気が向けば人間を助けることもあると考えられています。アイルランドの人々の心には、自分たちの世界とは違う目に見えない異界があり、それによって文化全体が豊かなものとなっているのです。イェイツも、その世界に心ひかれた詩人のひとりでした。
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