メディアにおける情報操作~報道の舞台裏~
戦争に突入したきっかけ
1990年、イラクによるクウェート侵攻の際、「クウェートの少女」の話がメディアを賑わしました。15歳の少女がボランティアをしていた病院にイラク兵が入ってきて、保育器の赤ん坊を投げ捨てていったというのです。この話をきっかけにイラクの残虐さを許してはいけないという世論につながっていき、アメリカをはじめとする多国籍軍の参加する戦争に突入するのを支持する傾向になりました。これが湾岸戦争の始まりです。
湾岸戦争で行われた情報操作
それまでのアメリカの世論にはベトナム戦争の惨禍を繰り返したくないという空気が根強くありました。一方アメリカ政府としては、イラクの独裁者フセインが大量破壊兵器を隠し持っているという説を危険視し、イラクを屈服させたいという意向がありました。そこで世論を動かすために用いられたのが「クウェートの少女」の話で、実はこれはヒルアンドノウルトンというPR会社が仕組んだ嘘の話だということが、後の取材によって明らかになりました。戦争反対と言っていた若者たちが「イラク許すまじ」とデモを起こすほどの意識の変換が、メディアの情報操作で可能になったわけです。
日本のメディアのウィークポイント
日本のメディアはジャーナリズムの役割を果たしているのかとよく問われます。特に記者クラブ制度という官公庁から大手メディアに画一化した情報を流すシステムが幅を利かせている現状では、官公庁は有利な情報を一方的に流せるわけで、情報操作が可能と言わざるを得ません。メディアの役割は、「Teacher」=世の中の仕組みを民に教える、「Forum」=議論すべきテーマを与える、「Watch Dog」=時の権力を監視する番犬である、という3つがあると言われていますが、日本のメディアの場合、このWatch Dogの機能が弱いのです。
私たちはこうしたメディアの役割や現状をふまえ、受け手としてただ真に受けるのではなく、メディアリテラシー(情報の真偽を見抜き使いこなす能力)を備える必要があるのです。
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先生情報 / 大学情報
明治大学 国際日本学部 教授 蟹瀬 誠一 先生
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メディア論先生への質問
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