小鳥の歌を研究して言語の起源のヒントをつかむ
鳥と人間の共通点
「なぜ人間だけが言葉を持つのか」という疑問を、小鳥の歌を通して探る研究が進んでいます。なぜ小鳥の歌を使って研究するのでしょうか。小鳥も犬も猫も鳴きますが、小鳥は鳴き声を学びます。これを「発声学習」と言います。犬や猫は発声学習をしません。なぜそれがわかるのでしょうか。犬や猫は親や仲間から引き離されて人間に育てられても「ワンワン」「ニャーニャー」のようにその動物本来の鳴き方をします。ところが小鳥は、人間に育てられると人間の言葉のまねをします。声を出すことと聞くことの仕組みが小鳥は異なっているのです。
発声学習と脳
現在のところ、発声学習をすることが知られている動物は小鳥、鯨類、そして人間です。そして、脳に音を学ぶ専用の神経回路が見つかっているのは、人間と鳥だけです。また、母語を学ぶ時期は人なら3歳前後まで、鳥も幼いときに歌の学習が進みます。これを臨界期と言い、臨界期がはっきりしているのは人間と鳥だけです。発声学習は言葉の重要な要素なので、言語の起源を調べるには発声学習をする動物を研究対象にすることが妥当だと考えられるのです。
言葉の前に歌があった
小鳥の発声学習は、学習過程や脳の仕組み、社会性、歌の発達などさまざまな角度から研究されています。それらを踏まえて、人間の祖先も歌を歌うことで状況を伝えていたのではないかという仮説がたてられました。例えば「みんなで狩りに行こう」という歌と「みんなで食事をしよう」という歌があったとします。この歌に共通するメロディが、共通する意味「みんなで○○をしよう」と結びつき、そのメロディを歌うことでその意味を伝えられるようになり、それが単語の誕生につながったのではないかという説です。これは言語の起源を説明する仮説の一つで、「相互分節化仮説」と言います。言語の起源のように、再現することができない研究テーマの場合、より矛盾が少ない説が正しいものと考えられます。今後もさらなる研究で言語の起源が少しずつ明らかになっていくでしょう。
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