「どっちが好き?」から始まる数理の世界

一対比較で見えてくる合理的な判断
「一番好きな食べ物は?」と聞かれたとき、焼き肉やすし、パスタなどいくつもの候補が思い浮かぶでしょう。そこでさらに、「その中で一番は?」と聞かれると、迷ってしまって決められなくなりがちです。ところが、「焼き肉とすしではどちらが好き?」と2つを取り出して比べると、答えやすくなるものです。このように2つずつで比較する方法をもとに、複数の選択肢の中で最適なものを導く手法が「AHP(階層化意思決定法)」です。合理的な判断を支える手法として注目されており、実際に北陸新幹線の大阪延伸ルートの選定といった公共性の高い意思決定にも活用されています。
判断の矛盾と向き合う数理的アプローチ
比較する項目が増えるほど、人の判断には矛盾が生じやすくなります。例えば、「焼き肉よりすしが好き」「すしよりパスタが好き」と言いながら、「パスタより焼き肉が好き」と判断してしまうような一貫性のないケースです。こうした矛盾を検出するために使われるのが「整合性指標」と呼ばれる指標です。この指標では、判断の一貫性を数値化でき、値が0に近いほど整合性があると判断されます。整合性指標は、比較データが抜けてしまったときにその値を推定したり、判断の信頼性を高めたりする目的でも使われています。こうした指標を活用することで、より正確な意思決定が可能になります。
選び方の「くせ」を見抜いて活用する
行動経済学には「極端回避性」と呼ばれる考え方があります。例えば、うな重に「松・竹・梅」と3つの価格帯がある場合、人はつい真ん中の「竹」を選びがちです。しかし、AHPの手法で判断してみると、多くの人が価格の安い「梅」を選ぶ傾向にあることがわかっています。このように、人には選び方のくせや偏りがあるため、必ずしも合理的な判断ができているとは限りません。行動経済学とAHPを組み合わせることで、マーケティングや経営戦略の分野でも新たな可能性が広がっています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
